古文を学ぶ中で、「ぬ」という言葉に戸惑った経験はありませんか?一見すると同じ「ぬ」でも、実は動詞と助動詞、さらには助動詞の中でも異なる意味を持つため、その見分け方や活用に悩む方は少なくありません。本記事では、古文の「去ぬ」活用表を軸に、動詞「いぬ」と二種類の助動詞「ぬ」について、それぞれの活用と意味、そして文中で正しく識別するためのコツを分かりやすく解説します。
「去ぬ」とは?動詞「いぬ」のナ行変格活用

「去ぬ」という言葉は、古文において主に動詞「いぬ」として使われます。この動詞「いぬ」は、「立ち去る」「時が過ぎる」「死ぬ」といった意味を持ち、現代語の「去る」に近いニュアンスで用いられるのが特徴です。特に「死ぬ」という意味で使われる場合は、婉曲的な表現として用いられることもあります。この動詞「いぬ」は、古文の動詞の中でも特殊な活用をする「ナ行変格活用」に分類されます。
ナ行変格活用は、「死ぬ」と「往ぬ(いぬ)/去ぬ(いぬ)」の二語しか存在しないため、その活用形をしっかりと覚えることが大切です。
動詞「いぬ」の意味と活用表
動詞「いぬ」は、文脈によって様々な意味合いで使われるため、その意味を正確に把握することが古文読解の第一歩です。主な意味は以下の通りです。
- 立ち去る、いなくなる:「人がその場を離れる」という物理的な移動を表します。
- 時が過ぎる、経過する:「時間が流れる」という抽象的な意味で使われます。
- 死ぬ、世を去る:「命が終わる」という婉曲的な表現として用いられることがあります。
この動詞「いぬ」の活用は、以下のナ行変格活用表のようになります。語幹は「い」で、活用語尾が変化します。
| 活用形 | 活用語尾 | 例 |
|---|---|---|
| 未然形 | な | いな(ず) |
| 連用形 | に | いに(たり) |
| 終止形 | ぬ | いぬ。 |
| 連体形 | ぬる | いぬる(時) |
| 已然形 | ぬれ | いぬれ(ば) |
| 命令形 | ね | いね! |
この活用表は、特に連体形が「ぬる」、已然形が「ぬれ」となる点が特徴です。ナ行変格活用は、この「いぬ」と後述する「死ぬ」の二語のみなので、この活用パターンをしっかりと頭に入れておきましょう。
「死ぬ」との共通点
ナ行変格活用に属する動詞は、「いぬ(往ぬ・去ぬ)」と「死ぬ」の二語だけです。 したがって、「死ぬ」も「いぬ」と全く同じ活用パターンをとります。この二つの動詞は、古文において非常に重要な役割を果たすため、セットで覚えるのがおすすめです。例えば、「死なず」「死にたり」「死ぬ。」「死ぬる時」「死ぬれば」「死ね!」といった形で活用します。
同じ活用パターンを持つことで、一方を覚えればもう一方も自然と理解できるため、効率的な学習につながります。
助動詞「ぬ」の二つの顔:完了・強意と打消

古文の「ぬ」は、動詞「いぬ」以外にも、助動詞として使われる場合があります。この助動詞の「ぬ」には、大きく分けて「完了・強意」と「打消」の二つの意味があり、それぞれ異なる活用と接続のルールを持っています。 この二つの「ぬ」を区別することが、古文読解の重要なポイントとなります。
完了・強意の助動詞「ぬ」の活用表と意味
完了・強意の助動詞「ぬ」は、主に「〜てしまう」「〜た」といった完了の意味や、「きっと〜だろう」「間違いなく〜はずだ」といった強意の意味を表します。 この助動詞は、活用語の連用形に接続するのが特徴です。
完了・強意の助動詞「ぬ」の活用表は、動詞「いぬ」と同じナ行変格活用型をとります。
| 活用形 | 活用語尾 | 意味 |
|---|---|---|
| 未然形 | な | (未然形には接続しない) |
| 連用形 | に | 〜てしまって、〜て |
| 終止形 | ぬ | 〜てしまった、〜た |
| 連体形 | ぬる | 〜てしまった(〜) |
| 已然形 | ぬれ | 〜てしまったので、〜てしまうと |
| 命令形 | ね | 〜てしまえ |
この助動詞「ぬ」が強意の意味で使われる場合、多くは「む」「らむ」「べし」など、推量の意味を持つ助動詞とともに用いられ、その事態が確実に起こることを強調します。 例えば、「世の例にもなりぬべき御もてなしなり」という例文では、「世間の話の種にもきっとなるだろうに違いないご処遇である」と訳され、「ぬ」が強意の意味で使われていることが分かります。
打消の助動詞「ず」の連体形「ぬ」の活用表と意味
もう一つの「ぬ」は、打消の助動詞「ず」の連体形です。 これは「〜ない」という否定の意味を表し、活用語の未然形に接続します。 「ず」自体は特殊な活用をしますが、その連体形が「ぬ」となるため、完了・強意の助動詞「ぬ」と形が同じになり、識別が難しくなります。
打消の助動詞「ず」の活用表は以下の通りです。
| 活用形 | 本活用 | 補助活用(ラ変型) | 意味 |
|---|---|---|---|
| 未然形 | (ず) | ざら | 〜ないだろう、〜なければ |
| 連用形 | ず | ざり | 〜なくて、〜ないで |
| 終止形 | ず | 〇 | 〜ない |
| 連体形 | ぬ | ざる | 〜ない(〜) |
| 已然形 | ね | ざれ | 〜ないので、〜ないから |
| 命令形 | 〇 | ざれ | 〜するな |
この表からも分かるように、打消の助動詞「ず」の連体形は「ぬ」となり、已然形は「ね」となります。 例えば、「京には見えぬ鳥なれば、みな人見知らず」という例文では、「都では目かけない鳥なので、誰も知らない」と訳され、「見えぬ」が打消の意味で使われていることが分かります。 「ぬ」の直前が未然形であれば、それは打消の「ず」の連体形である可能性が高いと判断できます。
「ぬ」の識別が古文読解のコツ!見分け方を徹底解説

古文の「ぬ」は、動詞「いぬ」、完了・強意の助動詞「ぬ」、打消の助動詞「ず」の連体形「ぬ」と、三つの異なる品詞や意味を持つため、文中で正しく見分ける「識別」が非常に重要です。 誤って解釈すると、文章全体の意味が全く逆になってしまうこともあります。ここでは、これらの「ぬ」を識別するための具体的な方法を解説します。
直前の語の接続形で見分ける方法
「ぬ」を識別する最も基本的な方法は、「ぬ」の直前に来る語の活用形に注目することです。
- 未然形接続の場合:打消の助動詞「ず」の連体形「ぬ」
動詞や助動詞の未然形に「ぬ」が接続している場合、それは「〜ない」という打消の意味を持つ「ず」の連体形です。例えば、「咲かぬ花」(咲かない花)の「咲か」は動詞「咲く」の未然形なので、「ぬ」は打消と判断できます。 - 連用形接続の場合:完了・強意の助動詞「ぬ」
動詞や助動詞の連用形に「ぬ」が接続している場合、それは「〜てしまった」「〜た」という完了や強意の意味を持つ助動詞「ぬ」です。例えば、「咲きぬ」(咲いてしまった)の「咲き」は動詞「咲く」の連用形なので、「ぬ」は完了と判断できます。
ただし、動詞の中には未然形と連用形が同じ形になるもの(例:「見る」の未然形「見」、連用形「見」)もあるため、この方法だけでは判断が難しい場合もあります。その際は、次に解説する文脈や直後の語に注目する方法を併用することが必要です。
文脈や直後の語で見分ける方法
直前の語の接続形だけでは判断が難しい場合、文脈や「ぬ」の直後に続く語に注目することで、識別をより確実に行うことができます。
- 文末にある場合:完了・強意の助動詞「ぬ」の終止形、または動詞「いぬ」の終止形
「ぬ」が文末(句点「。」の直前)にある場合、それは終止形である可能性が高いです。この場合、完了・強意の助動詞「ぬ」か、動詞「いぬ」の終止形であると考えられます。例えば、「風立ちぬ。」(風が吹いた。)は完了の「ぬ」です。 - 体言(名詞)や連体形接続の助動詞・助詞が続く場合:打消の助動詞「ず」の連体形「ぬ」
「ぬ」の直後に名詞(体言)や、連体形に接続する助動詞(例:「なり(断定)」)、あるいは助詞(例:「を」「に」「の」「は」「が」)が続く場合、その「ぬ」は打消の「ず」の連体形であると判断できます。 例えば、「見えぬ鳥」(見えない鳥)の「鳥」は名詞なので、「ぬ」は打消と分かります。 - 終止形接続の助動詞が続く場合:完了・強意の助動詞「ぬ」
「ぬ」の直後に終止形に接続する助動詞(例:「べし」「らし」「まじ」「らむ」「めり」「なり(伝聞)」)が続く場合、その「ぬ」は完了・強意の助動詞「ぬ」であると判断できます。
これらの判断材料を複数組み合わせることで、より正確な識別が可能になります。特に、文脈全体を把握し、自然な意味になるかどうかを考えることが、識別の精度を高める上で非常に重要です。
係り結びの法則と「ぬ」
古文特有の文法現象である「係り結びの法則」も、「ぬ」の識別において重要な手がかりとなります。係助詞「ぞ」「なむ」「や」「か」などが文中に用いられると、文末の活用形が変化するからです。
- 係助詞「なむ」の結びの場合:打消の助動詞「ず」の連体形「ぬ」
係助詞「なむ」が文中にあり、その結びが「ぬ」となっている場合、その「ぬ」は打消の助動詞「ず」の連体形であると判断できます。 例えば、「腰なむ動かれぬ。」(腰が動かない。)という文では、「なむ」の結びで連体形となるため、「動かれぬ」の「ぬ」は打消と分かります。
このように、係り結びの法則を理解していると、文末の「ぬ」が終止形なのか連体形なのかを判断する助けとなり、結果として「ぬ」の識別を容易にします。係助詞の種類とそれが引き起こす結びの形を覚えておくことは、古文読解の大きな武器となるでしょう。
古文「ぬ」の活用をマスターする覚え方

古文の「ぬ」の活用や識別は、覚えることが多くて大変だと感じるかもしれません。しかし、いくつかのコツや練習方法を取り入れることで、効率的にマスターできます。ここでは、楽しく覚えるための語呂合わせや、実践的な練習方法を紹介します。
語呂合わせで楽しく覚える
古文の助動詞の活用は、語呂合わせを使うと記憶に残りやすくなります。特に、ナ行変格活用は「死ぬ」「いぬ」の二語しかないので、この二語の活用形を語呂合わせで覚えるのがおすすめです。
- ナ行変格活用「な・に・ぬ・ぬる・ぬれ・ね」の語呂合わせ
「なぜに、ぬるいぬるま湯ぬれてねる?」
この語呂合わせは、ナ行変格活用の活用語尾「な/に/ぬ/ぬる/ぬれ/ね」を順番に覚えるのに役立ちます。少しユニークな表現ですが、記憶に残りやすいでしょう。
また、助動詞の接続を覚えるための語呂合わせも活用できます。例えば、連用形接続の助動詞を覚える語呂合わせとして、「月蹴りぬ。煙足したり。」(つ・き・けり・ぬ・けむ・たし・たり)というものがあります。 このように、リズムに乗せて覚えることで、単調な暗記作業が楽しくなり、定着しやすくなります。
例文で実践!理解を深める練習
活用表や語呂合わせで基本を覚えたら、実際に古文の例文に触れて練習することが不可欠です。多くの例文を読み解くことで、知識が定着し、識別能力が向上します。
- 「ぬ」を含む様々な例文を読み解く
教科書や問題集に載っている「ぬ」を含む例文を積極的に読み、それがどの「ぬ」であるかを識別する練習を繰り返しましょう。例えば、「宮に参りぬ。」(宮に参上してしまった。) や「腰なむ動かれぬ。」(腰が動かない。) といった例文を使って、直前の語の活用形や文末の形、係り結びの有無などを確認しながら識別します。 - 現代語訳と照らし合わせる
識別した「ぬ」の意味が、現代語訳と合致するかどうかを確認しましょう。もし現代語訳と異なる場合は、識別のどこかに誤りがある可能性が高いです。間違いを恐れずに何度も挑戦し、その都度、正しい知識と照らし合わせることで、理解が深まります。
また、自分で簡単な古文の文章を作成し、「ぬ」を意図的に使い分けてみるのも良い練習になります。アウトプットを通じて、より実践的な識別能力を養うことができるでしょう。
よくある質問

「ぬ」の識別とは?
「ぬ」の識別とは、古文に出てくる「ぬ」が、動詞「いぬ(往ぬ・去ぬ)」、完了・強意の助動詞「ぬ」、打消の助動詞「ず」の連体形「ぬ」のどれであるかを文脈や接続、活用形などから見分けることです。 これらを正しく見分けることで、古文の文章を正確に理解できます。
古文 ぬ 活用 覚え方
古文の「ぬ」の活用を覚えるには、まず動詞「いぬ(死ぬ)」と完了・強意の助動詞「ぬ」が同じナ行変格活用(な・に・ぬ・ぬる・ぬれ・ね)であることを理解し、語呂合わせや反復練習で覚えるのがおすすめです。 打消の助動詞「ず」の連体形「ぬ」は、その活用表全体(ず・ず・ず・ぬ・ね・〇)を覚えることが大切です。
助動詞 ぬ 意味
助動詞「ぬ」には、主に二つの意味があります。一つは「〜てしまう」「〜た」といった完了の意味と、「きっと〜だろう」「間違いなく〜はずだ」といった強意の意味を持つ完了・強意の助動詞「ぬ」です。 もう一つは、打消の助動詞「ず」の連体形として使われる「〜ない」という打消の意味です。
助動詞 ぬ 接続
完了・強意の助動詞「ぬ」は、活用語の連用形に接続します。 一方、打消の助動詞「ず」の連体形「ぬ」は、活用語の未然形に接続します。 この接続の違いが、識別の重要な手がかりとなります。
助動詞 ぬ 完了 強意
完了・強意の助動詞「ぬ」は、動作や事柄が完了したことを表す「〜てしまう」「〜た」という意味と、推量の助動詞などと共に使われ、その事態が確実に起こることを強調する「きっと〜だろう」といった強意の意味を持ちます。 連用形に接続し、活用はナ行変格活用型です。
助動詞 ぬ 打消
助動詞「ぬ」が打消の意味で使われる場合、それは打消の助動詞「ず」の連体形です。 「〜ない」という否定の意味を表し、活用語の未然形に接続します。 文脈や直後の語、係り結びの法則などと合わせて識別することが求められます。
古文 ぬ ね 識別
古文の「ぬ」と「ね」の識別は、それぞれ完了・強意の助動詞「ぬ」と打消の助動詞「ず」の活用形が重なるため重要です。 「ぬ」は完了の助動詞「ぬ」の終止形・連体形、または打消の助動詞「ず」の連体形です。「ね」は完了の助動詞「ぬ」の命令形、または打消の助動詞「ず」の已然形です。 直前の語の接続形や、文末、直後の語、係り結びの法則などから判断します。
ナ行変格活用 動詞
ナ行変格活用動詞は、古文において「死ぬ」と「往ぬ(いぬ)/去ぬ(いぬ)」の二語のみです。 これらの動詞は、「な・に・ぬ・ぬる・ぬれ・ね」という特殊な活用パターンをとります。 意味は「死ぬ」「立ち去る」「時が過ぎる」などです。
ナ行変格活用 覚え方
ナ行変格活用は「死ぬ」と「いぬ」の二語しかないので、この二語をセットで覚えるのが効率的です。活用語尾「な・に・ぬ・ぬる・ぬれ・ね」を語呂合わせで覚えたり、実際に例文を音読したりして、耳と口で覚える方法も有効です。
助動詞 ず 活用
打消の助動詞「ず」は特殊な活用をします。本活用は「ず・ず・ず・ぬ・ね・〇」、補助活用(ラ変型)は「ざら・ざり・〇・ざる・ざれ・ざれ」です。 活用語の未然形に接続し、「〜ない」という打消の意味を表します。 特に連体形が「ぬ」、已然形が「ね」となるため、「ぬ」の識別で重要になります。
まとめ
- 古文の「ぬ」には、動詞「いぬ」と二種類の助動詞「ぬ」がある。
- 動詞「いぬ」はナ行変格活用で、「立ち去る」「時が過ぎる」「死ぬ」の意味を持つ。
- ナ行変格活用は「死ぬ」と「いぬ」の二語のみ。
- 完了・強意の助動詞「ぬ」は「〜てしまう」「〜た」「きっと〜だろう」の意味。
- 完了・強意の助動詞「ぬ」は活用語の連用形に接続する。
- 完了・強意の助動詞「ぬ」の活用もナ行変格活用型。
- 打消の助動詞「ず」の連体形も「ぬ」となる。
- 打消の助動詞「ず」の連体形「ぬ」は「〜ない」の意味。
- 打消の助動詞「ず」の連体形「ぬ」は活用語の未然形に接続する。
- 「ぬ」の識別は、直前の語の接続形が最も基本的な判断材料。
- 文脈や直後の語(体言、助動詞など)も識別の重要な手がかりとなる。
- 係り結びの法則(特に「なむ」の結び)も識別に役立つ。
- ナ行変格活用の語呂合わせ「なぜに、ぬるいぬるま湯ぬれてねる?」が覚えやすい。
- 多くの例文を読み解き、現代語訳と照らし合わせる実践練習が大切。
- 「ぬ」の識別をマスターすれば、古文読解の精度が格段に高まる。
- 「ぬ」と「ね」の識別も、それぞれの活用形と接続を理解することが重要。
- 助動詞「ず」の活用表全体を覚えることも「ぬ」の識別に不可欠。
