健康診断や人間ドックの血液検査で、「銅が高い」という結果が出て不安を感じている方もいらっしゃるかもしれません。この数値の異常は、体のどこかに何らかの異変が起きているサインである可能性があります。しかし、すぐに深刻な病気を心配する必要はありません。本記事では、血液中の銅が高くなる主な原因や、考えられる病気、そしてその後の対応について、分かりやすく解説します。
検査結果を正しく理解し、適切な次のステップを踏み出すための助けとなれば幸いです。
血液検査で「銅が高い」と言われたら?まずは落ち着いて原因を知ることから

血液検査で銅の数値が高いと指摘されると、誰でも不安になるものです。しかし、銅は私たちの体にとって欠かせない必須ミネラルであり、その数値が一時的に変動することもあります。まずは落ち着いて、どのような原因が考えられるのかを知ることが大切です。
銅は体に必要な必須ミネラル
銅は、私たちの体内で様々な重要な役割を果たす必須微量ミネラルです。例えば、赤血球の形成を助けたり、骨や血管の健康を保ったり、脳の正常な働きを支援したりする酵素の構成成分となっています。体内には約80~100mgの銅が存在し、毎日の食事から摂取されています。摂取された銅は小腸から吸収され、主に肝臓でセルロプラスミンというタンパク質と結合して血液中を循環し、必要な臓器に運ばれます。
そして、役目を終えた銅や過剰な銅は、主に肝臓から胆汁を通じて便として体外に排泄される仕組みです。
血液中の銅の基準値は、検査機関によって多少の差はありますが、一般的に成人で71~132 µg/dL程度とされています。 この基準値から外れると、何らかの異常が示唆されることになります。
血液中の銅が高くなる主な原因:ウィルソン病

血液中の銅が高くなる原因として、最もよく知られているのが「ウィルソン病」です。これは遺伝性の病気で、体内の銅の代謝に異常が生じることで発症します。
ウィルソン病とは?遺伝子の異常が引き起こす病気
ウィルソン病は、肝臓や脳、眼、腎臓など、全身の様々な臓器に銅が過剰に蓄積してしまう遺伝性の代謝異常症です。 通常、食事から摂取された銅は肝臓で処理され、余分なものは胆汁として体外に排泄されます。しかし、ウィルソン病の患者さんでは、この銅の排泄機能がうまく働かないため、体内に銅が溜まってしまうのです。この病気は、約3万~4万人に1人の割合で発症すると言われており、決して珍しい病気ではありません。
ATP7B遺伝子の変異と銅の蓄積メカニズム
ウィルソン病の主な原因は、13番染色体にある「ATP7B遺伝子」の変異です。 この遺伝子は、肝細胞内で銅を胆汁中に排泄したり、血液中の銅を運ぶタンパク質であるセルロプラスミンに銅を結合させたりする働きを持つATP7Bタンパク質の設計図となっています。ATP7B遺伝子に変異があると、このタンパク質が正常に機能せず、肝臓から胆汁への銅の排泄が滞ってしまいます。
その結果、肝臓に銅が蓄積し、さらに血液中に「遊離銅(非セルロプラスミン結合銅)」が増加して、他の臓器にも銅が沈着し、様々な障害を引き起こすのです。
ウィルソン病の主な症状
ウィルソン病の症状は、銅が蓄積する臓器によって多岐にわたります。発症年齢も3歳から50歳代と幅広く、症状の現れ方も様々です。
- 肝臓の症状
初期には疲れやすさ、黄疸、腹痛、嘔吐、浮腫、腹満などの非特異的な症状が見られることがあります。 進行すると、慢性肝炎、肝硬変、さらには劇症肝炎や肝不全に至ることもあります。 血液検査で肝機能異常が見つかるケースも少なくありません。 - 神経・精神症状
脳に銅が蓄積すると、振戦(ふるえ)、発語困難、嚥下困難、よだれ、協調運動障害などの神経症状が現れることがあります。 また、意欲低下、集中力低下、気分変調、性格変化などの精神症状が見られることもあり、うつ病や統合失調症と誤診されるケースもあります。 - 眼の症状(カイザー・フライシャー角膜輪)
特徴的な症状の一つに、虹彩(黒目の部分)の縁に現れる金色や緑がかった金色の輪があります。これは「カイザー・フライシャー角膜輪」と呼ばれ、角膜に銅が沈着することで生じます。
ウィルソン病の診断方法
ウィルソン病の診断は、複数の検査を組み合わせて行われます。症状や家族歴から疑われる場合、以下の検査が実施されます。
- 血清セルロプラスミンと血清銅
ウィルソン病では、肝臓でセルロプラスミンへの銅の結合が障害されるため、血清中のセルロプラスミン濃度が低値を示すことが多いです。 これに伴い、血清総銅濃度も低値となる傾向がありますが、体内で毒性を発揮する「遊離銅」は高値になります。 - 尿中銅排泄量
体内に銅が過剰に蓄積しているため、尿中に排泄される銅の量が増加します。 - 肝生検と遺伝子検査
診断を確定するために最も特異的な検査の一つが、肝臓の組織を採取して銅の含有量を測定する肝生検です。ウィルソン病では、肝臓の銅含量が著しく高値を示します。 また、ATP7B遺伝子の変異を調べる遺伝子検査も診断に役立ちます。
ウィルソン病の治療方法
ウィルソン病は、早期に診断され適切な治療を開始すれば、症状の進行を抑え、良好な予後が期待できる病気です。 治療は生涯にわたって継続する必要があります。
- 銅キレート薬
体内に蓄積した銅を体外に排泄させる効果のある薬(D-ペニシラミンや塩酸トリエンチンなど)を服用します。これらの薬は銅と結合し、尿中への排泄を促進します。 - 亜鉛製剤
亜鉛は、腸管からの銅の吸収を阻害する働きがあります。 銅キレート薬と併用したり、維持療法として用いられたりします。 - 食事療法と生活上の注意点
銅を多く含む食品(レバー、牡蠣、チョコレート、ナッツ類など)の摂取を控える食事療法も重要です。 また、銅製の調理器具の使用にも注意が必要な場合があります。
ウィルソン病以外の血液中の銅が高くなる原因

血液中の銅が高くなる原因はウィルソン病だけではありません。他の様々な病気や体の状態によっても、銅の数値が上昇することがあります。
急性銅中毒(銅過剰摂取)
非常にまれですが、短期間に大量の銅を摂取することで急性銅中毒を引き起こし、血液中の銅が異常に高くなることがあります。これは、通常の食生活ではほとんど起こりませんが、特定の状況下で発生する可能性があります。
日常生活における銅の摂取源
銅は様々な食品に含まれる必須ミネラルですが、特定の状況下で過剰摂取となることがあります。例えば、酸性の飲料(ジュースやスポーツドリンクなど)を銅製の容器に長時間入れたままにしておくと、銅が溶け出して過剰に摂取してしまう可能性があります。 また、銅製の水道管から溶け出す銅イオンが原因となることもありますが、これは通常、微量であり、健康に影響を及ぼすほどではありません。
急性銅中毒の症状と注意点
急性銅中毒の初期症状としては、吐き気、嘔吐、腹痛、下痢などが挙げられます。 大量の銅を摂取した場合は、腎臓の損傷、赤血球の破壊による貧血(溶血性貧血)が生じ、重症化すると命に関わることもあります。 銅製の調理器具や容器を使用する際は、酸性の食品や飲料を長時間保存しないように注意することが大切です。ただし、銅鍋自体が危険というわけではなく、プロの料理人も愛用する優れた調理器具です。
緑青(ろくしょう)と呼ばれる銅の錆も、かつては有毒とされていましたが、現在の研究では無害であることが確認されています。
肝臓や胆道の病気
肝臓は銅の代謝において中心的な役割を担っているため、肝臓や胆道の病気があると血液中の銅の数値に影響が出ることがあります。銅は主に胆汁を通じて体外に排泄されるため、胆汁の流れが滞るような病気では、血液中の銅が増加する傾向にあります。
胆道閉塞や肝硬変との関連
例えば、胆道閉塞(胆汁の通り道が詰まる病気)や、原発性胆汁性肝硬変、細胆管性肝硬変といった病気では、銅の排泄が阻害されることで血清銅が高値を示すことがあります。 また、慢性肝炎や肝硬変など、肝臓自体の機能が低下している場合も、銅の代謝がうまくいかずに血液中の銅濃度が上昇することが考えられます。これらの病気は、ウィルソン病とは異なるメカニズムで銅の数値に影響を与えるため、鑑別診断が重要です。
炎症や感染症
体内で炎症や感染症が起きている場合にも、血液中の銅の数値が上昇することがあります。銅は、炎症反応に関わるタンパク質(炎症性タンパク質)の一つとして、炎症時に増加する性質があるためです。 これは、体が病原体と戦ったり、損傷した組織を修復したりする過程で、銅が重要な役割を果たすためと考えられています。そのため、風邪やインフルエンザなどの一般的な感染症から、より重篤な炎症性疾患まで、様々な状況で一時的に銅の数値が高くなる可能性があります。
その他の疾患や状態
上記以外にも、血液中の銅が高くなる可能性のある疾患や生理的な状態がいくつか存在します。
- 妊娠
妊娠中は、体内のホルモンバランスの変化により、血清銅の数値が上昇することが知られています。 これは生理的な変化であり、通常は心配する必要はありません。 - 甲状腺機能亢進症(バセドウ病)
甲状腺ホルモンが過剰に分泌される甲状腺機能亢進症(バセドウ病)の患者さんでも、血清銅が高値を示すことがあります。 - 悪性腫瘍
一部の悪性腫瘍(がん)においても、血液中の銅濃度が上昇することが報告されています。 これは、がん細胞の増殖や血管新生に銅が関与しているためと考えられています。 - 鉄欠乏性貧血
意外に思われるかもしれませんが、鉄欠乏性貧血の際に血清銅が高値を示すことがあります。 銅は鉄の代謝に関わるため、鉄が不足すると銅のバランスが変化することが一因と考えられています。
血液検査の結果を正しく理解するために

血液検査で銅の数値が高いと分かった場合、その結果を正しく理解し、適切な対応を取ることが非常に重要です。自己判断せずに、必ず専門医に相談しましょう。
血清銅とセルロプラスミンの関係
血液中の銅のほとんど(約90~95%)は、セルロプラスミンというタンパク質と結合した状態で存在しています。 そのため、血清銅の数値が高い場合、同時にセルロプラスミンの数値も高くなっていることがあります。これは、炎症や感染症、妊娠など、セルロプラスミン自体が増加する状況でよく見られます。一方で、ウィルソン病のようにセルロプラスミンへの銅の結合が障害される病気では、血清総銅は低値を示すにもかかわらず、体内で毒性を発揮する「遊離銅」が高値となるため、この二つの数値の関係を総合的に評価することが診断の鍵となります。
したがって、血清銅の数値だけでなく、セルロプラスミンや尿中銅排泄量など、関連する他の検査項目と合わせて判断することが不可欠です。
専門医への相談の重要性
血液検査の結果は、あくまで体内の状態を示す一つの指標に過ぎません。銅の数値が高いからといって、必ずしも重篤な病気であるとは限りませんが、放置すると健康に影響を及ぼす可能性のある病気が隠れていることもあります。特に、ウィルソン病のような遺伝性の病気は、早期発見と早期治療が予後を大きく左右します。 検査結果に不安を感じたら、まずはかかりつけ医に相談し、必要に応じて肝臓専門医や神経内科医など、専門の医療機関を受診することが大切です。
医師は、あなたの症状、病歴、他の検査結果などを総合的に判断し、適切な診断と治療方針を提案してくれます。自己判断で治療を始めたり、不安を抱え込んだりせず、専門家の助けを借りるようにしましょう。
よくある質問

- Q1: 血液検査で銅が高いと言われたら、すぐに治療が必要ですか?
- Q2: 銅の摂取量を減らすにはどうすれば良いですか?
- Q3: ウィルソン病は遺伝する病気ですか?
- Q4: 血液検査の銅の基準値はどのくらいですか?
- Q5: 銅鍋を使うと銅中毒になりますか?
- Q6: 銅が低い場合はどのような原因が考えられますか?
Q1: 血液検査で銅が高いと言われたら、すぐに治療が必要ですか?
血液検査で銅が高いと言われたからといって、すぐに治療が必要とは限りません。原因によって対応が異なります。まずは医師の診察を受け、精密検査で原因を特定することが大切です。
Q2: 銅の摂取量を減らすにはどうすれば良いですか?
医師から指示があった場合、銅を多く含む食品(レバー、牡蠣、チョコレート、ナッツ類など)の摂取を控える食事療法が考えられます。自己判断での極端な制限は避け、栄養士や医師の指導のもとで行いましょう。
Q3: ウィルソン病は遺伝する病気ですか?
はい、ウィルソン病は常染色体劣性遺伝形式をとる遺伝性の病気です。 ご家族にウィルソン病の患者さんがいる場合は、検査を検討することをおすすめします。
Q4: 血液検査の銅の基準値はどのくらいですか?
血液検査の銅の基準値は、検査機関や性別によって多少異なりますが、一般的に成人で71~132 µg/dL程度とされています。 詳細は検査結果用紙や医師にご確認ください。
Q5: 銅鍋を使うと銅中毒になりますか?
通常の調理で銅鍋を使用する分には、銅中毒になる心配はほとんどありません。 ただし、酸性の食品や飲料を銅製の容器に長時間保存することは避けるべきです。
Q6: 銅が低い場合はどのような原因が考えられますか?
血液中の銅が低い場合、銅欠乏症、メンケス病(遺伝性疾患)、低タンパク血症などが考えられます。 この場合も、医師による詳しい検査と診断が必要です。
まとめ
- 血液検査で銅が高い場合、様々な原因が考えられます。
- 最も重要な原因は、遺伝性の病気であるウィルソン病です。
- ウィルソン病は肝臓や脳などに銅が過剰に蓄積する病気です。
- ATP7B遺伝子の変異がウィルソン病の原因となります。
- ウィルソン病の症状は肝臓、神経、眼に現れることがあります。
- 診断には血清セルロプラスミン、尿中銅、肝生検などが用いられます。
- ウィルソン病の治療は銅キレート薬や亜鉛製剤、食事療法が基本です。
- 急性銅中毒は、まれに銅の過剰摂取で起こります。
- 肝臓や胆道の病気も銅が高くなる原因の一つです。
- 炎症や感染症によっても一時的に銅が上昇することがあります。
- 妊娠や甲状腺機能亢進症、悪性腫瘍なども関連する場合があります。
- 血液中の銅は、ほとんどがセルロプラスミンと結合しています。
- 検査結果の解釈には、専門医の総合的な判断が不可欠です。
- 自己判断せず、不安な場合は必ず医療機関を受診しましょう。
- 早期発見と適切な治療が、良好な予後につながります。
