「高額療養費制度」という言葉を聞いたことはありますか?病気や怪我で医療費が高額になった際、家計の大きな助けとなる大切な制度です。しかし、「制度が複雑でわかりにくい」「最近、引き上げがあったと聞いたけれど、何が変わったの?」と不安を感じている方もいるかもしれません。
本記事では、高額療養費制度の基本的な仕組みから、2026年8月から段階的に実施される自己負担限度額の引き上げ内容、そしてあなた自身の医療費負担をどのように軽減できるのかを、具体的な情報に基づいてわかりやすく解説します。この制度を正しく理解し、いざという時に慌てないための準備を始めましょう。
高額療養費制度とは?医療費の自己負担を抑える仕組み

高額療養費制度は、日本の公的医療保険制度の一つであり、医療機関や薬局の窓口で支払う医療費が、ひと月(月の初めから終わりまで)で一定の金額を超えた場合に、その超えた金額が公的医療保険から支給される仕組みです。この制度があるおかげで、私たちは高額な医療費に直面しても、過度な経済的負担に苦しむことなく、必要な医療を受けられます。
国民皆保険制度を支える重要な柱の一つと言えるでしょう。
制度の目的と対象者
この制度の主な目的は、病気や怪我で医療費が高額になった際に、家計が破綻するのを防ぎ、誰もが安心して医療を受けられるようにすることです。対象となるのは、日本の公的医療保険に加入している全ての人です。会社員が加入する健康保険(協会けんぽや組合健保)、自営業者などが加入する国民健康保険、そして75歳以上の方が加入する後期高齢者医療制度など、どの医療保険に加入していても利用できます。
自己負担限度額の基本的な考え方
高額療養費制度では、年齢や所得に応じて「自己負担限度額」が定められています。この限度額を超えて支払った医療費が、後から払い戻される仕組みです。例えば、年収約370万円~約770万円の69歳以下の方が、1か月に100万円の医療費(3割負担で窓口支払い30万円)がかかった場合、自己負担限度額が約8万7,430円であれば、差額の21万2,570円が払い戻されることになります。
この限度額は、医療費の総額ではなく、保険適用される自己負担分に対して適用されるのがポイントです。
高額療養費の「引き上げ」はいつから?何が変わった?

高額療養費制度の自己負担限度額は、医療費の増加や公的医療保険制度の持続可能性といった課題に対応するため、段階的に見直しが進められています。特に、2026年8月からは、この自己負担限度額の引き上げが実施される予定です。この変更は、多くの人にとって医療費負担に影響を与える可能性があるため、内容をしっかりと把握しておくことが大切です。
最新の制度改正と変更点
高額療養費制度の自己負担限度額の引き上げは、一度にではなく、影響を緩和するために2段階のスケジュールで進められます。第1段階は2026年8月から、第2段階は2027年8月から開始される予定です。 この見直しは、主に医療費の増加と、それに伴う公的医療保険制度の持続可能性という背景があります。
多くの人が安心して医療を受けられる仕組みを将来にわたって維持するため、今回の見直しが検討されました。
2026年8月から実施される第1段階の変更では、まず現行の所得区分のまま、全体的に自己負担限度額が引き上げられます。具体的には、すべての所得区分で月額の上限額が4%から7%程度、負担が増える見込みです。 さらに、2027年8月の第2段階では所得区分が細分化され、その所得層の中でも収入が高い人の負担が増える可能性があります。
また、患者負担の年間上限が新たに導入されるほか、70歳以上の外来特例の限度額も引き上げられる予定です。
所得区分ごとの自己負担限度額の変更
今回の引き上げでは、所得区分ごとに自己負担限度額が見直されます。特に、年収約200万円未満の低所得層への配慮は示されているものの、それ以外の所得層では負担が増えることが予想されます。例えば、70歳以上の一般所得者の外来特例の月額上限は、2026年8月に2万2,000円、年間上限21万6,000円に引き上げられ、2027年8月には所得区分の細分化に合わせて、年収約200万円以上の所得区分の人は月額2万8,000円に引き上げられる見込みです。
これにより、制度利用者の約8割が負担増となるという試算もあります。 ご自身の所得区分がどのようになるのか、事前に確認しておくことが重要です。
あなたの自己負担限度額はいくら?所得区分別の計算方法

高額療養費制度における自己負担限度額は、年齢(70歳未満か70歳以上か)と所得によって細かく定められています。ご自身の自己負担限度額を把握することは、医療費の備えを考える上で非常に大切です。ここでは、それぞれの年齢層と所得区分に応じた計算方法をわかりやすく解説します。
70歳未満の方の自己負担限度額
70歳未満の方の自己負担限度額は、所得に応じて5つの区分に分けられています。医療費の総額が大きくなるほど、自己負担限度額も高くなる仕組みです。具体的な計算式は以下の通りです。
- 区分ア(年収約1,160万円以上):252,600円+(医療費-842,000円)×1%
- 区分イ(年収約770万~約1,160万円):167,400円+(医療費-558,000円)×1%
- 区分ウ(年収約370万~約770万円):80,100円+(医療費-267,000円)×1%
- 区分エ(年収約370万円未満):57,600円
- 区分オ(住民税非課税世帯):35,400円
この計算式は、医療費の総額(10割負担の金額)から一定額を差し引いた残りに1%を乗じ、基本の限度額に加算する形です。医療費が大きくなるほど、1%分の加算額も増えるため、自己負担額も増えることになります。
70歳以上の方の自己負担限度額
70歳以上の方の自己負担限度額は、70歳未満とは異なり、外来(個人ごと)と外来+入院(世帯ごと)でそれぞれ限度額が設定されています。所得区分も現役並み所得者、一般、低所得者などに分かれています。
主な所得区分と自己負担限度額(月額)の例は以下の通りです。
- 現役並み所得者Ⅲ(課税所得690万円以上):外来+入院 252,600円+(医療費-842,000円)×1%
- 現役並み所得者Ⅱ(課税所得380万円以上):外来+入院 167,400円+(医療費-558,000円)×1%
- 現役並み所得者Ⅰ(課税所得145万円以上):外来+入院 80,100円+(医療費-267,000円)×1%
- 一般(課税所得145万円未満等):外来 18,000円(年間上限144,000円)、外来+入院 57,600円
- 低所得者Ⅱ(住民税非課税世帯):外来 8,000円、外来+入院 24,600円
- 低所得者Ⅰ(住民税非課税世帯で所得が0円等):外来 8,000円、外来+入院 15,000円
70歳以上の方の場合、高齢受給者証を医療機関の窓口で提示することで、自己負担限度額までの支払いとなる場合があります。ただし、所得区分によっては「限度額適用認定証」が必要となるため、事前に確認が必要です。
所得区分を確認する方法
ご自身の所得区分は、加入している公的医療保険の種類によって確認方法が異なります。会社員の方であれば、健康保険組合や協会けんぽのウェブサイトや窓口で、ご自身の標準報酬月額から確認できます。自営業者の方であれば、国民健康保険の窓口である市区町村役場で確認が可能です。所得区分は、前年または前々年の所得に基づいて判定されるため、毎年変動する可能性がある点に注意しましょう。
医療費負担をさらに軽減する特例措置

高額療養費制度には、さらに医療費の負担を軽減するための特例措置がいくつか設けられています。これらの制度を上手に活用することで、予期せぬ高額な医療費に直面した場合でも、家計への影響を最小限に抑えられます。特に、長期にわたる治療が必要な場合や、世帯全体で医療費がかさんでいる場合には、これらの特例が大きな助けとなるでしょう。
世帯合算で自己負担を減らす方法
高額療養費制度には「世帯合算」という特例があります。これは、同一の公的医療保険に加入している世帯内で、1か月の医療費の自己負担額が複数ある場合に、それらを合算して自己負担限度額を計算できる仕組みです。 70歳未満の方の場合、医療機関ごとの自己負担額が21,000円以上のものが合算の対象となります。 一方、70歳以上の方の場合は、金額にかかわらず全ての自己負担額を合算できます。
これにより、個々の医療費では限度額に達しなくても、世帯全体で合算することで高額療養費の支給対象となる可能性があります。
多数回該当とは?長期療養の強い味方
「多数回該当」とは、直近12か月間に3回以上、高額療養費制度の自己負担限度額に達した場合に、4回目以降の自己負担限度額がさらに引き下げられる仕組みです。 例えば、年収約370万円~約770万円の人の場合、通常の上限額は約8万円台ですが、多数回該当になると4万4,400円に軽減されます。 この制度は、がん治療や難病など、長期にわたる継続的な治療が必要な患者さんの経済的負担を大きく和らげる役割を果たします。
ただし、多数回該当のカウントは、加入している公的医療保険が変わると引き継がれない場合があるため、転職などで保険者が変わる際は注意が必要です。
特定疾病の場合の特例
特定の疾病(血友病、人工透析が必要な慢性腎不全、HIV感染症の一部)については、さらに自己負担が軽減される特例があります。これらの疾病で治療を受ける場合、年齢や所得に関わらず、医療機関の窓口での自己負担額が月額10,000円(一部の所得区分では20,000円)までとなります。 この特例を利用するには、事前に「特定疾病療養受療証」の交付を受ける必要があります。
申請方法については、加入している医療保険の窓口に問い合わせてみましょう。
高額療養費の申請方法と注意点

高額療養費制度は、医療費が高額になった際に家計を助ける大切な制度ですが、その恩恵を受けるためには適切な申請が必要です。申請方法にはいくつかの選択肢があり、それぞれに注意点があります。いざという時にスムーズに手続きを進められるよう、ここで詳しく確認しておきましょう。
申請の流れと必要な書類
高額療養費の申請は、原則として医療機関で医療費を支払った後に行う「事後申請」と、事前に「限度額適用認定証」を取得して窓口での支払いを抑える「事前申請」の2つの方法があります。
事後申請の場合:
- 医療機関の窓口で、医療費の自己負担分全額を支払います。
- 加入している健康保険(協会けんぽ、組合健康保険、国民健康保険の場合はお住まいの自治体の役所)に問い合わせ、高額療養費支給申請書を入手します。
- 必要事項を記入し、領収書などの必要書類を添えて申請します。
- 審査が完了すると、自己負担限度額を超えた分の医療費が払い戻されます。
事前申請(限度額適用認定証の活用)の場合:
入院や手術などで高額な医療費がかかることが事前に分かっている場合は、「限度額適用認定証」を事前に申請して取得するのがおすすめです。 この認定証を医療機関の窓口で提示することで、窓口での支払いが自己負担限度額までとなります。 これにより、一時的に多額の医療費を立て替える必要がなくなります。
申請は、加入している健康保険の窓口で行います。マイナンバーカードを健康保険証として利用している場合は、オンライン資格確認を導入している医療機関であれば、事前の申請なしに限度額が適用されるため、認定証の提示は原則不要です。
申請期限と払い戻しまでの期間
高額療養費の申請期限は、医療機関で支払いをした日の翌月の初日から2年間です。 期限を過ぎると払い戻しを受けられなくなるため、忘れずに申請しましょう。払い戻しまでの期間は、申請から約3か月程度かかるのが一般的です。 そのため、一時的に医療費を立て替える必要がある場合は、ある程度の資金準備をしておくことが望ましいです。
事前に申請する「限度額適用認定証」の活用
前述の通り、「限度額適用認定証」は、高額な医療費の支払いを事前に抑えるための有効な方法です。特に、入院や手術、長期にわたる治療が予定されている場合には、この認定証を事前に取得しておくことで、窓口での支払いを自己負担限度額までに抑えられます。 70歳以上の方で所得区分が「現役並み所得者Ⅰ」または「現役並み所得者Ⅱ」に該当する方、または住民税非課税世帯の方は、申請が必要です。
マイナ保険証を利用していない場合は、必ず事前に申請手続きを行いましょう。
よくある質問

- 高額療養費制度は誰でも利用できますか?
- 高額療養費の対象にならない費用はありますか?
- 高額療養費と医療費控除は併用できますか?
- 入院中に高額療養費制度を利用するにはどうすればよいですか?
- 高額療養費の申請を忘れてしまった場合はどうなりますか?
- 高額療養費の限度額は年収によって変わりますか?
- 高額療養費の申請はいつまでに行えばいいですか?
- 高額療養費の払い戻しはいつ頃ですか?
高額療養費制度は誰でも利用できますか?
はい、日本国内の公的医療保険に加入している方であれば、年齢や所得に関わらず誰でも利用できます。会社員、自営業者、年金受給者など、加入している医療保険の種類に応じて制度が適用されます。
高額療養費の対象にならない費用はありますか?
はい、高額療養費制度の対象となるのは、保険診療の自己負担分のみです。具体的には、差額ベッド代、入院時の食事代の一部負担、先進医療の技術料、美容整形やインプラントなどの自由診療費用は対象外となります。
高額療養費と医療費控除は併用できますか?
はい、高額療養費と医療費控除は併用できます。 ただし、高額療養費として支給された金額は、医療費控除の計算をする際に「保険金などで補填された金額」として差し引く必要があります。 つまり、高額療養費で払い戻しを受けた後の自己負担額が、医療費控除の対象となります。 確定申告の際には、この点を考慮して計算しましょう。
入院中に高額療養費制度を利用するにはどうすればよいですか?
入院が決まったら、事前に加入している健康保険の窓口で「限度額適用認定証」を申請し、交付を受けましょう。 この認定証を医療機関の窓口に提示することで、入院中の医療費の支払いが自己負担限度額までとなります。 マイナンバーカードを健康保険証として利用している場合は、オンライン資格確認を導入している医療機関であれば、認定証の提示は原則不要です。
高額療養費の申請を忘れてしまった場合はどうなりますか?
高額療養費の申請には、医療機関で支払いをした日の翌月の初日から2年間の時効があります。 この期間を過ぎてしまうと、払い戻しを受けられなくなりますので、注意が必要です。もし申請を忘れていたことに気づいたら、できるだけ早く加入している健康保険の窓口に問い合わせてみましょう。
高額療養費の限度額は年収によって変わりますか?
はい、高額療養費の自己負担限度額は、年収(所得)によって異なります。 所得が高いほど自己負担限度額も高くなる「応能負担」の考え方が取り入れられています。 ご自身の所得区分を確認し、該当する限度額を把握することが大切です。
高額療養費の申請はいつまでに行えばいいですか?
高額療養費の申請は、医療費を支払った月の翌月の初日から2年以内に行う必要があります。 2年を過ぎると時効となり、払い戻しを受けられなくなりますので、早めの申請を心がけましょう。
高額療養費の払い戻しはいつ頃ですか?
高額療養費の申請後、払い戻しが行われるまでには、通常3か月から4か月程度の期間がかかります。 医療機関から健康保険へのレセプト(診療報酬明細書)の提出や審査に時間がかかるためです。そのため、一時的に医療費を立て替えるための資金を準備しておくことが望ましいでしょう。
まとめ
- 高額療養費制度は、医療費が高額になった際の自己負担を軽減する公的医療保険制度です。
- 2026年8月から、自己負担限度額の引き上げが段階的に実施されます。
- 引き上げは2026年8月と2027年8月の2段階で行われ、所得区分も細分化される予定です。
- すべての所得区分で月額上限額が4%から7%程度増える見込みです。
- 70歳以上の外来特例の自己負担限度額も引き上げられます。
- 自己負担限度額は、年齢と所得区分によって異なります。
- 70歳未満は所得に応じた計算式、70歳以上は外来と入院で限度額が設定されています。
- 世帯合算により、世帯全体の医療費を合算して限度額を適用できます。
- 多数回該当は、直近12か月で3回以上限度額に達した場合に4回目以降の負担が軽減される制度です。
- 特定の疾病には、さらに自己負担を軽減する特例があります。
- 高額療養費の申請は、事後申請と事前申請(限度額適用認定証)の2つの方法があります。
- マイナ保険証を利用すれば、限度額適用認定証の事前申請が不要になる場合があります。
- 申請期限は医療費支払い月の翌月1日から2年間です。
- 払い戻しまでには約3か月程度かかります。
- 高額療養費の対象外となる費用(差額ベッド代、食事代など)もあります。
- 高額療養費と医療費控除は併用可能ですが、高額療養費で支給された分は医療費控除から差し引きます。
- ご自身の所得区分と限度額を把握し、いざという時のために備えましょう。
- 制度改正の最新情報を確認し、適切な対応をすることが重要です。
- 不安な場合は、加入している医療保険の窓口に相談しましょう。
