蚕を飼育していると、いよいよ繭を作る時期がやってきます。この大切な時期に、蚕が安心して繭を紡げる場所が「まぶし」です。まぶしは、蚕がきれいな繭を作るために欠かせない道具であり、自宅で手軽に作ることができます。本記事では、蚕のまぶしの作り方から、繭作りを成功させるためのコツまで、詳しく解説します。
蚕のまぶしとは?繭作りに欠かせない理由

蚕が成長の最終段階である終齢幼虫になると、桑の葉を食べるのをやめ、いよいよ繭を紡ぎ始めます。このとき、蚕が安全に、そしてきれいに繭を作るための足場となるのが「まぶし」です。まぶしは「蔟(まぶし)」とも書き、蚕が繭を作るための専用の部屋や枠を指します。
野生の蚕は木の枝や葉の間に繭を作りますが、家畜化された蚕は自分で最適な場所を見つけるのが苦手です。そのため、人間がまぶしを用意してあげる必要があります。まぶしがないと、蚕は飼育ケースの隅や他の蚕の近くで繭を作ろうとし、形がいびつになったり、複数の繭がくっついてしまったりする可能性が高まります。
まぶしが蚕にとって大切な役割
まぶしは、蚕が良質な繭を作るために非常に重要な役割を担っています。まず、個々の蚕に独立した空間を提供することで、繭同士がくっつくのを防ぎ、きれいな形の繭を形成させます。
また、蚕は繭を作り始める前に尿を排出することがあり、まぶしがこの尿を吸収したり、下に敷いた紙に排出させたりすることで、繭が汚れるのを防ぎます。 清潔な環境は、病気の予防にもつながり、健康な繭を育てる上で欠かせません。
まぶしの種類とそれぞれの特徴
まぶしには、古くから使われているものから、現代の飼育環境に合わせたものまで、いくつかの種類があります。伝統的な養蚕で使われていたのは、藁を編んだ「折藁蔟(おりわらまぶし)」や木の枝を束ねた「粗朶蔟(そだまぶし)」などです。
現代では、ボール紙を格子状に組み合わせた「回転まぶし」が一般的ですが、家庭での飼育では、ダンボールや卵パック、トイレットペーパーの芯などを利用した手作りのまぶしがよく用いられます。 これらの手軽な材料で作るまぶしは、コストを抑えつつ、蚕に快適な繭作りの場所を提供できるのが特徴です。
蚕のまぶし作りに必要な材料と道具

自宅で蚕のまぶしを作る場合、特別な材料や道具はほとんど必要ありません。身近にあるものを活用して、簡単に準備を進められます。ここでは、手軽に手に入る材料と、あると便利な道具をご紹介します。
手軽に揃う材料
まぶし作りの主な材料は、ご家庭で不要になったものや、安価で手に入るものです。特に、ダンボールと卵パックは、加工しやすく、蚕が繭を作りやすい構造にできるためおすすめです。
- ダンボール:お菓子の箱や宅配便の箱など、比較的薄手で加工しやすいものが適しています。
- 卵パック:プラスチック製や紙製の卵パックは、すでに個室状になっているため、加工の手間が少なく便利です。
- トイレットペーパーの芯:筒状になっているため、蚕が入り込みやすく、手軽にまぶしとして利用できます。
- 新聞紙や画用紙:ダンボールの仕切りを作る際や、卵パックの底に敷く尿吸収用として使えます。
これらの材料は、蚕の数や飼育スペースに合わせて選びましょう。特にダンボールは、加工の自由度が高く、多くの蚕に対応できるまぶしを作りやすい材料です。
準備しておきたい道具
まぶしをスムーズに作るために、以下の道具を準備しておくと良いでしょう。
- ハサミまたはカッターナイフ:ダンボールや紙を切る際に使います。カッターナイフを使う際は、下にカッターマットを敷き、手を切らないように注意しましょう。
- 定規:ダンボールに切れ込みを入れる際や、サイズを測る際に使います。
- 鉛筆やペン:印をつけたり、線を引いたりするのに使います。
- セロハンテープやガムテープ:ダンボールの組み立てや固定に必要です。
- 千枚通し(卵パックの場合):卵パックの底に尿抜きの穴を開ける際に使います。
これらの道具があれば、安全かつ効率的にまぶし作りを進められます。特にカッターナイフを使用する際は、怪我のないよう慎重に作業を進めることが大切です。
ダンボールと卵パックで蚕のまぶしを作る進め方

ここでは、家庭で手軽に作れるダンボールと卵パックを使ったまぶしの具体的な作り方をご紹介します。どちらも簡単な進め方なので、ぜひ試してみてください。
ダンボールまぶしの具体的な作り方
ダンボールを使ったまぶしは、格子状に仕切ることで、蚕が個々に繭を作りやすい環境を整えます。
- ダンボールをカットする:まず、飼育ケースの大きさに合わせてダンボールの板を数枚用意します。蚕の数に応じて、仕切りの枚数を調整しましょう。幅27cm、奥行き27cm、高さ3cm程度のサイズが一般的です。
- 切れ込みを入れる:用意したダンボールの板に、約4cm間隔で深さの半分程度の切れ込みを入れます。 縦方向と横方向で同じ枚数、同じ間隔で切れ込みを入れると、きれいに格子状になります。
- 組み立てる:切れ込みを入れたダンボールの板を互い違いに差し込み、格子状に組み立てます。このとき、しっかりと固定されるように、切れ込みの幅を調整すると良いでしょう。
- 飼育ケースに設置する:組み立てた格子状のまぶしを、飼育ケースの中に設置します。まぶしの下には、蚕の尿を吸収するための新聞紙などを敷いておくと、清潔さを保てます。
ダンボールの切れ込みは、蚕が通り抜けられる程度の幅にすることが重要です。あまり狭すぎると蚕が入れず、広すぎると複数の蚕が同じ場所で繭を作ってしまう可能性があります。
卵パックまぶしの簡単な作り方
卵パックは、元々個室状になっているため、加工が非常に簡単です。特に少数の蚕を飼育する場合におすすめの方法です。
- 卵パックを用意する:紙製またはプラスチック製の卵パックを用意します。プラスチック製の場合は、透明なので中の様子を観察しやすいという利点があります。
- 尿抜きの穴を開ける(プラスチック製の場合):プラスチック製の卵パックを使用する場合、底に千枚通しなどで5つほどの小さな穴を開けます。 蚕は繭を作り始める前に尿を排出することがあるため、この穴から尿が排出されるようにします。 穴は容器の内側から外側に向けて開けると、尿がスムーズに流れ出ます。
- ティッシュペーパーなどを敷く:穴を開けた卵パックの底には、尿を吸い取るためのティッシュペーパーやキッチンペーパーなどを敷いておくと良いでしょう。
- 蚕を入れる:準備ができた卵パックの各部屋に、熟蚕を1匹ずつ入れます。
卵パックまぶしは、手軽さが魅力ですが、通気性を確保するために、蓋を完全に閉めずに少し隙間を開けるか、蓋にも小さな穴を開けるなどの工夫をすると良いでしょう。
蚕をまぶしに入れるタイミングと繭作りのコツ

まぶしを用意するだけでなく、蚕を適切なタイミングでまぶしに移し、繭作りを成功させるための環境を整えることが大切です。蚕の様子をよく観察し、最適な時期を見極めましょう。
蚕をまぶしに入れる最適な時期
蚕がまぶしに入る準備ができた状態を「熟蚕(じゅくさん)」と呼びます。 熟蚕になった蚕は、以下のようなサインを見せ始めます。
- 桑の葉を食べなくなる:食欲が落ち、ほとんど桑の葉を食べなくなります。
- 体が透き通るような飴色になる:体が少し縮み、皮膚が黄色っぽく透き通ったように見えます。
- 頭を上げて左右に振る:飼育ケースの中を落ち着きなく動き回り、頭を上げて左右に振る仕草を見せます。これは繭を作る場所を探しているサインです。
- うんちが緩くなる:排泄物がいつもより柔らかくなることがあります。
これらのサインが見られたら、熟蚕をまぶしに移す「上蔟(じょうぞく)」のタイミングです。 熟蚕は上へ上へと登る性質があるため、まぶしに入れてもすぐに繭を作り始めないことがありますが、半日から1日ほどで繭を作り始めます。
熟蚕を見極めることは、蚕がストレスなく繭作りに集中できる環境を提供するために非常に重要です。
繭作りを成功させるための環境と注意点
蚕がまぶしに入ってから繭を作り終えるまで、いくつかの環境要因に注意を払うことで、より良い繭を期待できます。
- 温度と湿度:営繭中は、温度23℃前後、湿度60%前後が理想的とされています。 高温多湿は病気の原因となるため、通気を良くすることが大切です。
- 清潔さの維持:まぶしに入れる前に、飼育ケースのフンや食べ残しをきれいに掃除しておきましょう。 営繭中も、まぶしの下に敷いた紙が尿で汚れたら交換するなど、清潔な状態を保つようにします。
- 過密を避ける:まぶしに蚕を詰め込みすぎると、ストレスがかかり、繭作りに失敗する原因になります。1つの部屋に1匹の蚕を入れるようにしましょう。
- 観察と見守り:蚕が繭を作り始めたら、無理に触ったり、頻繁に移動させたりしないようにします。蚕は3日ほどかけて繭を完成させます。
もし、まぶしに入れても蚕が繭を作らない場合、環境が不適切であるか、病気の可能性も考えられます。 適切な温度と湿度を保ち、清潔で静かな環境を提供することが、繭作りを成功させるための鍵となります。
よくある質問

蚕のまぶしはいつ入れるのが良いですか?
蚕が桑の葉を食べなくなり、体が透き通ったような飴色になり、頭を上げて左右に振って動き回るようになったら、まぶしに入れる最適なタイミングです。この状態の蚕を「熟蚕(じゅくさん)」と呼びます。
蚕のまぶしは何でできていますか?
まぶしは、ボール紙を格子状に組み合わせたものが一般的ですが、家庭ではダンボール、卵パック、トイレットペーパーの芯、新聞紙などを利用して手作りできます。
蚕のまぶしがないとどうなりますか?
まぶしがないと、蚕は飼育ケースの隅や他の蚕の近くで繭を作ろうとし、繭の形がいびつになったり、複数の繭がくっついてしまったりする可能性が高まります。また、排泄物で繭が汚れる原因にもなります。
蚕のまぶしは洗って再利用できますか?
ダンボールや紙製のまぶしは使い捨てが基本ですが、プラスチック製の卵パックなどは、きれいに洗浄・消毒すれば再利用できる場合があります。ただし、衛生面を考慮し、可能であれば新しいものを使用することをおすすめします。
蚕の繭作りで失敗しないための解決策はありますか?
繭作りを失敗させないためには、熟蚕を適切なタイミングでまぶしに移すこと、営繭中の温度を23℃前後、湿度を60%前後で保つこと、清潔な環境を維持すること、そしてまぶしに蚕を詰め込みすぎないことが大切です。 ストレスを与えず、静かに見守ることも成功につながります。
まとめ
- 蚕のまぶしは、蚕がきれいな繭を作るために不可欠な場所です。
- まぶしは「蔟(まぶし)」とも呼ばれ、蚕が安心して繭を紡ぐための足場となります。
- まぶしがないと、繭の形がいびつになったり、他の繭とくっついたりする原因になります。
- 手作りのまぶしには、ダンボールや卵パック、トイレットペーパーの芯などが利用できます。
- ダンボールまぶしは、格子状に仕切ることで個室を作り、多くの蚕に対応できます。
- 卵パックまぶしは、加工が簡単で、少数の蚕の飼育に適しています。
- プラスチック製卵パックには、尿抜きの穴を開ける工夫が大切です。
- 蚕が桑を食べなくなり、体が透き通り、頭を振るようになったら「熟蚕」のサインです。
- 熟蚕になったら、速やかにまぶしに移す「上蔟」を行いましょう。
- 営繭中は、温度23℃前後、湿度60%前後を保つのが理想です。
- 清潔な環境を維持し、過密飼育を避けることが繭作りのコツです。
- まぶしに入れるタイミングを逃さないように、蚕の様子をよく観察しましょう。
- 繭作りを成功させるには、蚕にストレスを与えない静かな環境が重要です。
- 手作りのまぶしは、コストを抑えつつ蚕に快適な繭作りの場所を提供します。
- まぶし作りを通して、蚕の生態への理解を深めることができます。
