古文を読んでいると頻繁に登場する「侍る」という言葉。現代語にはない独特のニュアンスを持つため、その意味や使い方に戸惑う方も多いのではないでしょうか。本記事では、「侍る」が持つ複数の意味や、謙譲語・丁寧語・尊敬語としての使い分け、さらには複雑な活用形まで、分かりやすく解説します。この記事を読めば、「侍る」の理解が深まり、古文読解がよりスムーズになるでしょう。
「侍る」古語の基本的な意味とは?

古語の「侍る」は、現代語の「侍る」とは異なり、複数の意味合いを持つ動詞です。その根底には「そばにいる」「仕える」というニュアンスがあり、そこから派生して様々な意味で使われるようになりました。まずは、その基本的な意味をしっかりと押さえていきましょう。
「お仕えする」「そばに控える」が主な意味
「侍る」の最も基本的な意味は、「貴人のそばにいてお仕えする」や「身分の高い人のそばに控える」というものです。これは、文字通り「侍(さむらい)」が主君のそばに仕える姿を想像すると理解しやすいでしょう。この意味合いで使われる場合、「侍る」は主に謙譲語として機能します。
「ある」「いる」の丁寧語としても使われる
「侍る」は、単に「ある」「いる」という意味で使われることもあります。ただし、この場合は話し相手に対する敬意を示す丁寧語として機能します。例えば、「そこに侍る」であれば「そこにございます」といったニュアンスになります。場所や存在を示す際に、より丁寧な表現として用いられるのが特徴です。
現代語の「侍る」との違い
現代語にも「侍る」という言葉は存在しますが、これは「刀を腰に侍らせる」のように、主に「身につける」「携える」といった意味で使われます。古語の「侍る」が持つ「お仕えする」「そばに控える」といった敬意のニュアンスは、現代語ではほとんど失われています。この違いを理解することが、古文読解の第一歩となります。
「侍る」の敬語の種類と使い分けを理解しよう

「侍る」が古文で難しいと感じる理由の一つに、その敬語の種類が複数ある点が挙げられます。謙譲語、丁寧語、そして稀に尊敬語としても使われるため、文脈によって意味を正確に判断する能力が求められます。それぞれの用法を詳しく見ていきましょう。
謙譲語「お仕え申し上げる」「おそばに控える」としての「侍る」
「侍る」が謙譲語として使われる場合、動作の主体(話者や筆者)が、その動作の対象となる人(貴人など)に対してへりくだることで敬意を表します。具体的な意味としては「お仕え申し上げる」「おそばに控える」となります。例えば、「殿に侍る」は「殿にお仕え申し上げる」という意味になり、殿への敬意が示されます。
丁寧語「~です」「~ます」「~ございます」としての「侍る」
「侍る」は、話し相手に対して丁寧な気持ちを表す丁寧語としても頻繁に用いられます。この場合、特定の動作を伴わず、文末に付いて「~です」「~ます」「~ございます」といった意味になります。例えば、「花咲き侍る」は「花が咲いております」となり、読み手や聞き手への敬意が込められています。
この用法は非常に広範囲で見られます。
尊敬語「いらっしゃる」「おいでになる」としての「侍る」(稀な用法)
「侍る」が尊敬語として使われることは非常に稀ですが、全くないわけではありません。主に、貴人が「お仕えする」という動作を行う場合に、その貴人への敬意を示すために用いられます。例えば、「帝、御前に侍り給ふ」のような形で、「帝が御前にお仕えしていらっしゃる」といった意味になります。
この用法は限定的であるため、基本的には謙譲語と丁寧語の二つを優先して覚えるのが良いでしょう。
「侍る」の活用形をマスターするコツ

古語の動詞は、現代語とは異なる活用形を持つため、覚えるのが大変だと感じるかもしれません。「侍る」も例外ではなく、四段活用と下二段活用の二つのパターンが存在します。それぞれの活用形を理解し、正しく使いこなすためのコツをご紹介します。
四段活用と下二段活用の違い
「侍る」は、文脈によって四段活用と下二段活用の両方を取ります。
- 四段活用:「お仕えする」「そばに控える」といった意味で、主に謙譲語として使われる場合に多く見られます。未然形が「侍ら」、連用形が「侍り」となるのが特徴です。
- 下二段活用:「ある」「いる」の丁寧語として使われる場合に多く見られます。未然形が「侍れ」、連用形が「侍り」となる点が四段活用と共通していますが、命令形などで違いが出ます。
この二つの活用形を区別することが、正確な古文読解には欠かせない知識です。
活用表と具体的な例文で確認
以下に「侍る」の活用表と具体的な例文を示します。これを参考に、それぞれの活用形と意味をしっかりと頭に入れましょう。
四段活用(謙譲語「お仕えする」など)
- 未然形:侍ら(ず)
- 連用形:侍り(て)
- 終止形:侍る
- 連体形:侍る(とき)
- 已然形:侍れ(ば)
- 命令形:侍れ
例文:
「君に侍らむ。」(あなたにお仕えしよう。)
「御前に侍りて。」(おそばに控えて。)
下二段活用(丁寧語「~です」など)
- 未然形:侍れ(ず)
- 連用形:侍り(て)
- 終止形:侍る
- 連体形:侍る(こと)
- 已然形:侍れ(ば)
- 命令形:侍れよ
例文:
「花咲き侍る。」(花が咲いております。)
「いかに侍るらん。」(どうでございましょうか。)
このように、活用形を覚えるだけでなく、実際の文脈でどのように使われるかを理解することが大切です。
古典文学に見る「侍る」の用例と解釈

「侍る」は、平安時代の文学作品に頻繁に登場します。実際の用例を通して、その意味やニュアンスをより深く理解していきましょう。有名な作品からの引用を交えながら解説します。
源氏物語における「侍る」の使われ方
『源氏物語』では、「侍る」が貴人のそばに仕える女房たちの様子を描写する際によく使われます。例えば、光源氏のそばに仕える女性や、帝に仕える女官たちの行動を示す場面で登場します。多くの場合、謙譲語として、仕える側のへりくだった態度や、その場に控えている状況を表しています。
例:「御前に侍る人々、皆涙を流しけり。」(おそばにお仕えしている人々は、皆涙を流した。)
この例では、貴人のそばにいる人々が、その貴人に対して敬意を払いながら控えている様子が分かります。
枕草子における「侍る」の使われ方
『枕草子』では、清少納言が日常の出来事や感想を述べる中で、「侍る」が使われます。ここでは、話し相手や読者に対する丁寧語としての「侍る」が非常に多く見られます。清少納言の洗練された文章の中で、状況を丁寧に描写する役割を担っています。
例:「春はあけぼの。やうやう白くなりゆく山ぎは、少しあかりて、紫だちたる雲のほそくたなびきたる。」(春はあけぼのが良い。だんだん白くなっていく山際が、少し明るくなって、紫がかった雲が細くたなびいている。)
この有名な冒頭部分には「侍る」は直接ありませんが、清少納言の他の記述では「~で侍る」といった丁寧語の表現が頻繁に用いられ、読者への語りかけの丁寧さを示しています。
その他の作品での使用例
『伊勢物語』や『竹取物語』など、他の古典作品でも「侍る」は重要な役割を果たしています。物語の登場人物が身分の高い人物に仕える場面や、語り手が読者に対して丁寧に語りかける場面で登場し、作品全体の雰囲気や人間関係を理解する上で重要な手がかりとなります。様々な作品で用例に触れることで、より実践的な理解を深めることができるでしょう。
「侍る」と混同しやすい古語表現との比較

古語には「侍る」と似た意味や機能を持つ言葉がいくつか存在します。特に「候ふ(さぶらう)」は「侍る」と非常に近いため、その違いを明確に理解しておくことが重要です。他の敬語表現との比較も交えながら、それぞれの言葉のニュアンスを掴んでいきましょう。
「候ふ(さぶらう)」との違いと共通点
「候ふ」も「侍る」と同様に、謙譲語(お仕えする、おそばに控える)と丁寧語(~です、~ます、~ございます)の両方の意味を持つ動詞です。
- 共通点:意味や敬語の種類が非常に似ており、互いに置き換え可能な場合も多くあります。どちらも「貴人のそばに控える」という原義から派生しています。
- 違い:一般的に、「侍る」の方がより古くから使われており、平安時代中期までは「侍る」が主流でした。平安後期から鎌倉時代にかけては「候ふ」がより一般的になり、特に書簡文などで多用されるようになります。また、「候ふ」は「~でございます」のように、より形式的で改まった丁寧さを持つ傾向があります。
文脈や時代背景によって使い分けられることがありますが、現代の古文読解においては、ほぼ同じ意味で捉えても問題ない場合が多いです。
他の謙譲語・丁寧語との使い分け
古語には「侍る」以外にも多くの謙譲語や丁寧語があります。
- 謙譲語の例:「奉る(たてまつる)」(差し上げる、召し上がる)、「参る(まいる)」(参上する、差し上げる)など。これらは「侍る」よりも具体的な動作を伴い、その動作の対象への敬意を表します。
- 丁寧語の例:「候ふ(さぶらう)」の他に、助動詞の「り」「む」なども丁寧のニュアンスを持つことがあります。
「侍る」は「お仕えする」「そばに控える」という場所や状態に重点を置いた謙譲語、または一般的な丁寧語として使われることが多いです。他の謙譲語が特定の動作(差し上げる、参上する)に特化しているのに対し、「侍る」はより広範な状況で用いられるのが特徴です。
よくある質問

ここでは、「侍る」に関するよくある質問とその回答をまとめました。疑問を解消し、さらに理解を深めるための参考にしてください。
「侍る」と「候ふ」の違いは何ですか?
「侍る」と「候ふ」は、どちらも謙譲語(お仕えする、そばに控える)と丁寧語(~です、~ます、~ございます)の両方の意味を持つ点で非常に似ています。主な違いは、使用された時代とニュアンスにあります。一般的に「侍る」は平安時代中期まで多く使われ、より古風な響きがあります。一方、「候ふ」は平安後期から鎌倉時代にかけて主流となり、特に書簡文などでより形式的で改まった丁寧さを持つ傾向があります。
現代の古文読解では、文脈によってはほぼ同じ意味で解釈できる場合も多いです。
「侍る」はなぜ複数の敬語の種類があるのですか?
「侍る」が複数の敬語の種類を持つのは、その語源と意味の広がりによるものです。「侍る」の元々の意味は「貴人のそばに控える」「お仕えする」というもので、これは動作の主体がへりくだる謙譲語として機能します。しかし、そこから派生して「(貴人のそばに)ある」「(貴人のそばに)いる」という意味でも使われるようになり、これが話し相手への丁寧さを示す丁寧語として定着しました。
非常に稀ですが、貴人が「お仕えする」という動作を行う場合に、その貴人への敬意を示す尊敬語として使われることもあります。このように、一つの言葉が時代とともに様々な文脈で使われるようになり、複数の敬語の機能を持つようになったと考えられます。
「侍る」の語源は何ですか?
「侍る」の語源は、「さむらふ」という言葉に由来するとされています。「さむらふ」は「さ(接頭語)+まほろふ(傍らにある)」が変化したもので、「傍らに控える」「お仕えする」という意味を持っていました。この「さむらふ」が音便化して「さぶらふ」となり、さらに「侍る」へと変化していったと考えられています。
この語源からも、「侍る」が持つ「そばにいる」「仕える」という基本的な意味が理解できます。
「侍る」は現代語でどう訳せば良いですか?
「侍る」の現代語訳は、文脈と敬語の種類によって異なります。
- 謙譲語の場合:「お仕え申し上げる」「おそばに控える」
- 丁寧語の場合:「~です」「~ます」「~ございます」「~おります」
- 尊敬語の場合(稀):「いらっしゃる」「おいでになる」
このように、一つの訳語で全てをカバーすることはできません。古文を読む際には、文中の主語や目的語、そして文脈全体から、どの敬語の種類として使われているかを判断することが重要です。特に丁寧語としての「侍る」は、現代語の「です・ます」に相当するため、文末表現として頻繁に用いられます。
まとめ
- 「侍る」は古語で「お仕えする」「そばに控える」「ある」「いる」などの意味を持つ。
- 主に謙譲語と丁寧語の二つの用法がある。
- 謙譲語としては「お仕え申し上げる」「おそばに控える」と訳される。
- 丁寧語としては「~です」「~ます」「~ございます」と訳される。
- 尊敬語としての用法は非常に稀で限定的である。
- 活用形は四段活用と下二段活用の二種類がある。
- 四段活用は主に謙譲語、下二段活用は主に丁寧語で使われる。
- 古典文学では『源氏物語』や『枕草子』に頻繁に登場する。
- 『源氏物語』では謙譲語としての用例が多い。
- 『枕草子』では丁寧語としての用例が多い。
- 「候ふ(さぶらう)」と意味や機能が非常に似ている。
- 「候ふ」は「侍る」よりも後世に広まり、より形式的な丁寧さを持つ。
- 他の謙譲語(奉る、参る)は具体的な動作を伴う。
- 「侍る」は場所や状態に重点を置いた謙譲語、または一般的な丁寧語。
- 語源は「さむらふ」で「傍らに控える」という意味に由来する。
- 現代語訳は文脈と敬語の種類によって使い分ける必要がある。
- 古文読解には文脈判断が不可欠である。
- 「侍る」の多義性を理解することが古文上達の鍵となる。
- 活用表を参考に具体的な例文で覚えるのが効果的。
- 古典作品を通して実際の使われ方に触れるのが良い。
