「最近、親の脈が速い気がする」「高齢者の脈拍数が多いのは大丈夫なの?」と、ご家族の健康状態に不安を感じていませんか?加齢とともに体の変化は誰にでも起こりますが、脈拍数の変化は時に重要なサインであることがあります。
本記事では、高齢者の脈拍数が多い原因について、正常値の目安から、日常生活で起こりうる生理的な要因、そして注意すべき病気のサインまでを徹底的に解説します。さらに、ご自宅でできる脈拍の正しい測り方や、異常を感じた際の適切な対処法、予防策についても詳しくご紹介します。大切な方の健康を守るためにも、ぜひ最後までお読みいただき、日々の健康管理にお役立てください。
高齢者の脈拍数とは?正常値と頻脈の基準

高齢者の脈拍数は、健康状態を把握するための大切な指標の一つです。脈拍は心臓が血液を全身に送り出す際に、動脈に生じる拍動を指します。この脈拍の数やリズムを観察することで、心臓や循環器系の状態を知る手がかりとなります。
高齢者の脈拍の正常値を知る
一般的に、成人の安静時の脈拍数は1分間に60〜100回が正常範囲とされています。しかし、高齢者の場合は、成人よりもやや低い傾向にあり、50〜70回/分程度が正常値とされることが多いです。これは、加齢に伴い活動量や代謝が低下し、体内の酸素消費量が少なくなるため、心臓が血液を送り出す回数も減ることに起因します。
ただし、この数値はあくまで目安であり、個人差が大きいことを理解しておくことが重要です。普段からご自身の、または大切な方の脈拍数を測り、その方の「平常値」を把握しておくことが、異常の早期発見につながる大切なコツとなります。
頻脈とは?脈拍数100回/分以上が続く場合
脈拍数が多い状態は「頻脈(ひんみゃく)」と呼ばれます。一般的に、安静時に1分間の脈拍数が100回以上続く場合を頻脈と判断します。高齢者の場合、脈拍が100回/分を超える状態が続く場合は、何らかの体調不良や病気が隠れている可能性があり、注意が必要です。
頻脈は、一時的なものから、心臓病などの深刻な疾患が原因で起こるものまで様々です。脈拍が速いだけでなく、動悸や息切れなどの自覚症状を伴う場合は、特に注意して医療機関を受診することを検討しましょう。
心拍数と脈拍数の違い
「心拍数」と「脈拍数」は、しばしば同じ意味で使われますが、厳密には異なる概念です。心拍数とは、1分間に心臓が拍動する回数を指します。一方、脈拍数とは、心臓が血液を送り出す際に動脈に生じる拍動を、手首などで感じる回数を指します。
通常、健康な状態であれば心拍数と脈拍数は一致します。しかし、不整脈など心臓のリズムに異常がある場合、心臓が拍動していても、その拍動が末梢の動脈まで十分に伝わらず、脈拍数が心拍数よりも少なくなることがあります。このため、脈拍を測ることは、心臓の状態や循環の異常を知る上で重要な手がかりとなるのです。
高齢者の脈拍数が多い主な原因

高齢者の脈拍数が多い原因は多岐にわたります。日常生活における一時的なものから、医療的な介入が必要な病気に至るまで、様々な要因が考えられます。ここでは、主な原因を詳しく見ていきましょう。
日常生活で脈拍数が増える生理的な要因
病気がなくても、私たちの体は様々な状況で脈拍数を変化させます。高齢者の場合も、以下のような生理的な要因で脈拍数が増えることがあります。
運動や身体活動
体を動かすと、筋肉に多くの酸素を供給するために心臓の働きが活発になり、脈拍数は自然と上昇します。高齢者では、若い頃よりも少しの運動で脈拍が上がりやすくなる傾向があります。これは、心臓機能の低下や体温調節機能の変化が関係しているためです。
精神的なストレスや緊張
不安や怒り、興奮などの精神的な要因は、自律神経の一つである交感神経を刺激し、心拍数を上昇させます。人前で話す、緊張する場面に遭遇する、強いストレスを感じるなどの状況では、安静時でも脈拍が速くなることがあります。
発熱や入浴による体温上昇
風邪や感染症による発熱時や、熱いお風呂に入った後など、体温が上昇すると脈拍数も増加します。体温が上がると血管が拡張し、血圧が下がるのを防ぐために心臓がより速く拍動して血圧を一定に保とうとする体の働きによるものです。
カフェイン、アルコール、喫煙の影響
カフェインやアルコール、ニコチンなどの刺激物は、交感神経を刺激し、一時的に心拍数を上昇させる作用があります。特にカフェインに敏感な方や、過剰な摂取は動悸を感じる原因となることがあります。
睡眠不足や生活リズムの乱れ
睡眠不足や不規則な生活リズムは、自律神経のバランスを乱し、交感神経が優位な状態を招きやすくなります。これにより、安静時でも脈拍数が高くなることがあり、倦怠感や睡眠障害を伴うことも少なくありません。
隠れた病気が原因となる場合
生理的な要因だけでなく、脈拍数が多い背景には、様々な病気が隠れていることがあります。特に高齢者の場合、複数の病気を抱えていることも多く、注意が必要です。
不整脈(心房細動など)
不整脈とは、心臓の拍動のリズムが乱れる状態の総称です。脈が速くなる「頻脈性不整脈」には、心房細動、発作性上室性頻拍、心房粗動、心室頻拍など様々な種類があります。特に心房細動は高齢者に多く見られ、脈がバラバラになるのが特徴です。心房細動は、すぐに命に関わることは稀ですが、心臓内に血栓ができやすくなり、脳梗塞を引き起こすリスクを高めるため、適切な治療が重要です。
心不全
心不全は、心臓のポンプ機能が低下し、全身に必要な血液を十分に送り出せなくなる状態を指します。心機能が落ちると、体はそれを補おうとして心拍数を増加させることで血流を維持しようとするため、脈拍数が多くなります。高齢者の心不全は、息切れや疲労感などの症状が「年のせい」と見過ごされがちですが、早期発見と治療が大切です。
甲状腺機能亢進症(バセドウ病)
甲状腺機能亢進症は、甲状腺ホルモンが過剰に分泌される病気です。このホルモンは全身の代謝を活発にするため、心臓の働きも促進され、頻脈や動悸、発汗、体重減少などの症状が現れることがあります。
貧血
貧血は、血液中の赤血球やヘモグロビンが減少し、全身への酸素供給能力が低下する状態です。体が酸素不足を補おうとして、心臓がより多くの血液を送り出そうとするため、脈拍数が増加します。特に高齢者では、栄養不足や消化器系の疾患など、様々な原因で貧血が起こりやすくなります。
脱水症状
体内の水分が不足すると、血液の量が減少し、血圧が低下します。これを補うために心臓はより速く拍動し、脈拍数が増加します。高齢者は喉の渇きを感じにくくなることや、トイレに行く回数を減らそうと水分摂取を控える傾向があるため、脱水症状に陥りやすいので注意が必要です。
その他の心臓病(狭心症、心筋梗塞など)
狭心症や心筋梗塞などの冠動脈疾患も、脈拍数に影響を与えることがあります。これらの病気では、心臓の筋肉に血液が十分に供給されず、心臓が酸素不足に陥ることで、脈拍の異常や胸の痛み、息苦しさなどの症状を引き起こすことがあります。
薬の副作用
服用している薬の種類によっては、副作用として脈拍数が増加することがあります。特に、気管支拡張薬や甲状腺ホルモン製剤、一部の降圧剤などが原因となる場合があります。新しい薬を飲み始めてから脈拍の変化に気づいた場合は、医師や薬剤師に相談しましょう。
脈拍数が多いときに注意すべき危険なサインと症状

高齢者の脈拍数が多い場合、それが一時的なものなのか、それとも医療機関を受診すべき危険なサインなのかを見極めることは非常に重要です。以下のような症状が伴う場合は、速やかに医療機関を受診することを強くおすすめします。
すぐに医療機関を受診すべき症状
脈拍数が多いだけでなく、以下の症状が一つでも現れた場合は、迷わず医師の診察を受けましょう。
- 動悸がする、胸に違和感がある: 心臓がドキドキする、胸が締め付けられるような感覚がある。
- 息切れや呼吸困難: 少し動いただけでも息が切れる、安静にしていても呼吸が苦しい。
- めまいやふらつき、立ちくらみ: 立ち上がった時に目の前が暗くなる、意識が遠のくような感覚がある。
- 失神や意識の乱れ: 一時的に意識を失う、意識がもうろうとする。
- 胸の痛み: 胸部に圧迫感や痛みを感じる。
- 冷や汗や吐き気: 脈拍が速くなると同時に、冷や汗が出たり吐き気を感じたりする。
- 全身倦怠感や疲労感: 体がだるく、疲れが取れない、日常生活を送るのが困難になる。
- むくみ: 足や顔がむくむ。
これらの症状は、不整脈、心不全、心筋梗塞などの重篤な心臓病や、その他の内科的疾患のサインである可能性があります。自己判断は危険ですので、専門医の診断を受けることが大切です。
高齢者特有の症状の見過ごしに注意
高齢者の場合、心臓病などの症状がはっきりと現れないことや、「年のせいだから仕方ない」と症状を見過ごしてしまうことが少なくありません。例えば、息切れや疲労感、むくみといった症状も、加齢によるものだと考えがちですが、これらは心不全の初期症状である可能性もあります。
また、高齢になると複数の病気を抱えていることが多く、症状が複雑に絡み合って現れることもあります。そのため、普段と違うと感じるわずかな変化にも注意を払い、定期的な健康チェックを習慣にすることが、早期発見と適切な治療につながります。
高齢者の脈拍を正しく測る方法

脈拍を正しく測ることは、日々の健康状態を把握し、異常の早期発見につなげるための重要な方法です。ここでは、ご自宅で簡単にできる脈拍測定のコツをご紹介します。
正確な脈拍測定のコツ
脈拍は、手首の親指側にある橈骨動脈(とうこつどうみゃく)で測るのが一般的です。以下の手順とコツを参考に、正確に測定しましょう。
- 安静にする: 運動後や入浴後、興奮している時などは脈拍が速くなっているため、正確な値を測ることができません。測定前は5分程度、椅子に座るなどしてリラックスした安静な状態を保ちましょう。
- 楽な姿勢で測る: 緊張すると脈拍が速くなることがあるため、楽な姿勢でリラックスして測定することが大切です。
- 指の当て方: 人差し指、中指、薬指の3本を揃え、手首の親指側の動脈に沿って軽く当てます。親指は自身の脈を感じやすいため使用しないようにしましょう。
- 1分間数える: ドクンドクンと脈打つ拍動を感じたら、時計の秒針を見ながら1分間、拍動の回数を数えます。脈拍が不規則な場合は、より正確な測定のために30秒または1分間しっかり数えるようにしましょう。
- 同じ場所で測る: 毎回同じ場所で測ることで、より正確な変化を把握することができます。
スマートウォッチやスマートフォンアプリでも脈拍を測れるものがありますが、医療機器ではないため、あくまで目安として活用し、気になる場合は手動での測定や医療機関での検査を検討しましょう。
普段の脈拍を知ることの重要性
脈拍数には個人差があるため、ご自身の、または大切な方の「普段の脈拍数」を知っておくことが非常に重要です。毎日同じ時間帯や状況で脈拍を測定し、記録する習慣をつけることで、わずかな変化にも気づきやすくなります。
例えば、普段は60回/分程度の脈拍が、ある日突然90回/分に増えた場合、それは何らかの異常を示すサインかもしれません。日々の記録は、医療機関を受診した際にも、医師が診断を下す上で貴重な情報となります。健康維持のために、脈拍チェックをぜひ習慣にしてください。
脈拍数が多い場合の適切な対処法と予防

高齢者の脈拍数が多い場合、原因に応じた適切な対処と予防が大切です。日常生活でできることから、医療機関での専門的な治療まで、様々な方法があります。
日常生活でできる改善策
病気が原因でない一時的な頻脈や、病気の進行を抑えるためには、日々の生活習慣を見直すことが有効です。
- 適度な運動を取り入れる: ウォーキングや軽いストレッチなど、無理のない有酸素運動を日常的に取り入れることで、心肺機能が高まり、自律神経のバランスが整いやすくなります。
- 健康的な食事を心掛ける: 栄養バランスの取れた食事を基本とし、塩分や糖分、脂質の過剰摂取を控えましょう。
- ストレスを軽減する: ストレスは交感神経を刺激し、脈拍数を上昇させます。趣味の時間を持つ、リラックスできる環境を作るなど、ストレスを上手に解消する方法を見つけましょう。
- 質の高い睡眠を確保する: 規則正しい睡眠は、自律神経のバランスを整える上で非常に重要です。就寝・起床時間を一定にし、十分な睡眠時間を確保しましょう。
- 禁煙・節酒を心掛ける: 喫煙や過度な飲酒は、心臓に負担をかけ、不整脈などの原因となることがあります。
- 十分な水分補給: 脱水は脈拍数を増加させる原因となるため、こまめな水分補給を意識しましょう。
これらの生活習慣の改善は、脈拍の安定だけでなく、全身の健康維持にもつながります。できることから少しずつ取り組んでみてください。
医療機関での検査と治療
脈拍数が多い原因が病気によるものである場合や、危険な症状を伴う場合は、医療機関での検査と治療が必要です。循環器内科を受診し、専門医の診断を受けましょう。
- 検査: 心電図検査、心エコー検査、血液検査などが行われ、脈拍数が多い原因を特定します。必要に応じて、24時間心電図(ホルター心電図)などで日常生活中の心拍を記録することもあります。
- 薬物療法: 不整脈を抑える抗不整脈薬や、心拍数を調整するβ遮断薬などが処方されることがあります。心房細動による脳梗塞のリスクがある場合は、血液を固まりにくくする薬が処方されることもあります。
- 非薬物療法: 薬物療法で効果が見られない場合や、特定の不整脈に対しては、カテーテルアブレーション治療(心臓内の異常な電気信号の発生源を焼灼する治療)や、ペースメーカーの植込み手術などが検討されることもあります。
医師とよく相談し、ご自身の状態に合った最適な治療方法を選択することが大切です。定期的な受診と、医師の指示に従った治療を継続することで、症状の改善や病気の進行を抑えることができます。
よくある質問

- 高齢者の脈拍が90は正常ですか?
- 高齢者の脈拍が100を超えたらどうすればいいですか?
- 高齢者の脈拍が早いのは何かの病気ですか?
- 高齢者の脈拍が早い時の対処法は?
- 高齢者の脈拍が不規則なのはなぜですか?
- 高齢者の心不全の初期症状は?
高齢者の脈拍が90は正常ですか?
高齢者の脈拍の正常値は一般的に50〜70回/分とされています。そのため、安静時に脈拍が90回/分である場合は、正常値よりやや高めと言えます。一時的な緊張や興奮、体温上昇などでも脈拍は上がることがありますが、安静時にも90回/分が続く場合は、何らかの体調不良や病気が隠れている可能性も考えられます。普段の脈拍と比較し、継続して高い場合は医療機関への相談をおすすめします。
高齢者の脈拍が100を超えたらどうすればいいですか?
安静時に脈拍が100回/分を超える状態は「頻脈」と判断されます。もし、動悸、息切れ、めまい、胸の痛みなどの症状を伴う場合は、速やかに医療機関(循環器内科など)を受診してください。症状がない場合でも、100回/分以上が続くようであれば、一度医師に相談し、原因を調べてもらうことが大切です。
高齢者の脈拍が早いのは何かの病気ですか?
高齢者の脈拍が早い原因は、運動やストレス、発熱、カフェイン摂取などの生理的なものから、不整脈、心不全、甲状腺機能亢進症、貧血、脱水などの病気まで多岐にわたります。特に、動悸や息切れ、めまいなどの症状を伴う場合は、心臓病などの重篤な疾患が隠れている可能性があるので、医療機関での検査が必要です。
高齢者の脈拍が早い時の対処法は?
脈拍が早い時の対処法は、その原因によって異なります。一時的な生理的要因であれば、安静にする、深呼吸をする、水分を補給する、カフェインやアルコールを控えるなどの方法で落ち着くことがあります。しかし、動悸や息切れ、めまいなどの症状を伴う場合や、安静にしても脈拍が落ち着かない場合は、自己判断せずに速やかに医療機関を受診することが最も重要です。
高齢者の脈拍が不規則なのはなぜですか?
高齢者の脈拍が不規則になる主な原因は「不整脈」です。特に「心房細動」は高齢者に多く見られる不整脈で、脈がバラバラになるのが特徴です。不整脈の中には治療の必要がないものもありますが、心不全や脳梗塞などの合併症を引き起こす危険な不整脈もあるため、不規則な脈を感じたら医療機関を受診して検査を受けることが大切です。
高齢者の心不全の初期症状は?
高齢者の心不全の初期症状は、風邪や貧血、加齢によるものと見過ごされがちですが、以下のような症状に注意が必要です。
- 少し動くと息切れがする
- 疲れやすい、体がだるい
- 足や顔がむくむ
- 夜間に咳や痰が増える
- 横になって眠れない(座ると呼吸が楽になる)
- 食欲不振、お腹が張る感じがする
これらの症状が複数当てはまる場合や、普段と違うと感じる場合は、心不全の可能性があるため、早めに医療機関を受診しましょう。
まとめ
- 高齢者の脈拍正常値は50〜70回/分が目安です。
- 安静時に脈拍が100回/分以上続く場合は頻脈とされます。
- 脈拍数が多い原因は生理的要因と病的な要因があります。
- 生理的要因には運動、ストレス、発熱、カフェイン摂取などが含まれます。
- 病的な原因として不整脈、心不全、甲状腺機能亢進症、貧血、脱水などが挙げられます。
- 動悸、息切れ、めまい、失神、胸痛は危険なサインです。
- 高齢者の心不全症状は見過ごされがちなので注意が必要です。
- 脈拍は手首の橈骨動脈で1分間測るのが正確です。
- 安静時、楽な姿勢、同じ場所で測るのがコツです。
- 普段の脈拍を知り、記録することが異常発見につながります。
- 生活習慣の改善は脈拍安定に役立ちます。
- 適度な運動、健康的な食事、ストレス軽減、質の良い睡眠が大切です。
- 禁煙・節酒、十分な水分補給も心がけましょう。
- 危険な症状がある場合は速やかに医療機関を受診しましょう。
- 医療機関では検査に基づき薬物療法や非薬物療法が行われます。
