お盆の時期になると、お墓に立てられた細長い木の板「塔婆（とうば）」を目にすることが増えます。故人やご先祖様への供養の気持ちを込める大切な塔婆ですが、「書き方がわからない」「どんな意味があるの？」と悩む方もいらっしゃるのではないでしょうか。
本記事では、お盆の塔婆の書き方から、その意味、宗派による違い、さらには手配方法まで、あなたが抱える疑問を解決するための情報を詳しく解説します。大切なご先祖様への供養の気持ちを、形としてしっかりと伝えられるよう、ぜひ最後までお読みください。
お盆に塔婆を立てる意味とは？供養の心を伝える大切な習慣
お盆の時期に塔婆を立てることは、故人やご先祖様への深い供養の気持ちを表す大切な習慣です。この木の板には、単なる記号以上の意味が込められています。塔婆を立てる行為そのものが、私たち生きる者が故人の冥福を祈り、善行を積むことにつながると考えられているのです。
塔婆は、故人の魂を慰め、あの世での安らかな暮らしを願う気持ちの表れでもあります。 遺された家族や親族が心を落ち着け、故人とのつながりを感じるための大切な機会となるでしょう。
塔婆とは何か？その起源と役割
塔婆の正式名称は「卒塔婆（そとば）」といい、古代インドのサンスクリット語「ストゥーパ」が語源です。 ストゥーパとは、お釈迦様の遺骨（仏舎利）を納めた仏塔を指し、これが日本の五重塔や五輪塔の起源とされています。 時代とともに、個人で大きな塔を建立することが難しくなり、現在のような細長い木の板に形を変えていきました。
塔婆は、故人やご先祖様の追善供養のために用いられます。 追善供養とは、生きている人が故人を偲んで祈ることで、故人の善行となり、極楽浄土へ向かって成仏するための後押しとなるという仏教の考え方です。 塔婆を立てることは、お墓を建てることと同じくらい大きな功徳があるとされています。
塔婆を立てることで得られる功徳
塔婆を立てることは、故人への供養だけでなく、私たち自身も功徳を積むことができる大切な行いです。 仏教では、塔婆そのものが仏様の姿であるとされ、これを建立することは仏像を建てることと同じ功徳をもたらすと説かれています。
また、塔婆を見ることは、仏様の心を目覚めさせる働きを持つともいわれています。 塔婆に記された経文や梵字に触れることで、故人が安楽の境地へ導かれ、その功徳が塔婆を建立した人やそれを見るすべての人々にも及ぶと考えられています。 故人への感謝と報恩の気持ちが、私たち自身の善行となり、巡り巡って私たち自身の幸せにもつながるのです。
塔婆の書き方基本の「き」表面・裏面の記載事項を詳しく解説
塔婆には、故人に関する大切な情報や供養の願いが込められています。自分で塔婆を書く機会は少ないかもしれませんが、記載されている内容を知ることは、供養の心をより深く理解する上で役立ちます。一般的に、塔婆の表面には故人の戒名や命日、裏面には施主名や建立年月日が書かれます。
宗派や地域によって多少の違いはありますが、ここでは一般的な塔婆の書き方について詳しく解説していきます。一つ一つの文字に込められた意味を理解し、心を込めて供養を行いましょう。
塔婆の表面に書く内容と順番
塔婆の表面には、故人の魂を慰め、仏様の世界での安寧を願うための重要な情報が記されます。これらの文字は、上から順に書かれるのが一般的です。
- 梵字（種字）
塔婆の最上部には、古代インドのサンスクリット語を表す「梵字（ぼんじ）」が書かれます。 これは、宇宙を構成する「空・風・火・水・地」の五大要素を意味する「キャ・カ・ラ・バ・ア」の五文字が一般的です。 宗派によっては、故人の守護仏を表す種字（しゅじ）が書かれることもあります。 - 戒名（法名・法号）
梵字の下には、故人が仏様の弟子になった証として僧侶から授けられた「戒名（かいみょう）」が記されます。 浄土真宗では「法名」、日蓮宗では「法号」と呼ばれます。故人の俗名（生前の名前）が書かれる場合もありますが、基本的には戒名が優先されます。 - 命日（没年月日）
戒名の隣には、故人が亡くなった日付である「命日（没年月日）」が書かれます。 これは、故人を偲び、供養を行う大切な節目を示すものです。 - 回忌（年忌）
命日の下には、「三回忌追善等」のように、供養の目的となる「回忌（年忌）」が記載されます。 お盆の塔婆であれば、「新盆追善」や「お盆供養」といった文言が入ることもあります。
これらの文字は、故人への敬意と供養の気持ちを込めて、丁寧に書かれることが大切です。特に、戒名や命日は間違いがないよう、細心の注意を払いましょう。
塔婆の裏面に書く内容と順番
塔婆の裏面には、主に塔婆を建立した人に関する情報が記されます。表面と同様に、宗派や地域によって細かな違いがあるため、事前に確認することをおすすめします。
- 施主名（供養者名）
塔婆の裏面の下の方には、塔婆を依頼した人、つまり「施主（せしゅ）」の名前が記載されます。 施主は基本的に単独で一本が原則ですが、連名で出すことも可能です。 複数人で供養する場合は、「〇〇家一同」や「孫一同」のようにまとめる方法もあります。 - 年月日（建立年月日）
施主名の上には、塔婆を立てた「年月日（建立年月日）」が記載されます。 これは、いつ供養が行われたかを示す大切な記録となります。 - 「為」や「建之」などの文字
宗派によっては、建立年月日の前に「為（ため）」や「建之（これをたつ）」といった文字が書かれることがあります。これらは「誰のために、いつ建てたか」を示す意味合いを持ちます。
裏面の記載事項も、故人への供養の気持ちを伝える上で重要です。特に施主名は、誰がこの供養を行ったのかを明確にするため、読みやすい楷書でフルネームを記載するように心がけましょう。
宗派によって異なる塔婆の書き方と注意点
塔婆の書き方や立て方には、宗派によって異なる慣習があります。これは、それぞれの宗派が持つ教えや供養の考え方の違いによるものです。ご自身の宗派の作法に沿って供養を行うことが、故人への敬意を示す上で非常に大切です。不明な点があれば、必ず菩提寺に確認するようにしましょう。
ここでは、主な宗派における塔婆の書き方や特徴について解説します。ご自身の宗派と照らし合わせながら、適切な方法を理解してください。
真言宗・天台宗・曹洞宗・臨済宗の場合
これらの宗派では、塔婆の表面に「梵字」が書かれるのが一般的です。 特に真言宗では、宇宙の五大要素を表す「キャ・カ・ラ・バ・ア」の梵字が上部に記され、これは大日如来を意味するとされています。 その下に故人の戒名、命日、回忌などが続きます。裏面には、大日如来を示す梵字「バン」や、苦厄災難を除く「破地獄の真言」などが書かれることもあります。
これらの宗派では、塔婆を立てることが仏を生み出し、福徳を積むことにつながると考えられています。 故人の成仏を祈り、ご先祖様が仏の世界で安らかに過ごせるよう願う意味合いが強いです。
浄土宗・浄土真宗の場合
浄土宗では塔婆を立てる習慣がありますが、浄土真宗では基本的に塔婆を立てません。 浄土真宗の教えでは、故人は阿弥陀仏の力によってすぐに極楽浄土へ往生できるとされており、追善供養の必要がないと考えられているためです。
もし浄土真宗のご家庭で塔婆を立てることを検討されている場合は、事前に菩提寺に相談し、その宗派の考え方や慣習を確認することが重要です。無理に立てる必要はなく、宗派の教えに沿った供養の形を大切にしましょう。
日蓮宗の場合
日蓮宗でも塔婆は立てられますが、他の宗派とは異なり、表面に「南無妙法蓮華経（なむみょうほうれんげきょう）」という題目が大きく書かれるのが特徴です。 これは、日蓮宗の根本的な教えであり、この題目こそが故人を成仏へと導く力を持つとされています。
題目の下に故人の法号（戒名）、命日、回忌などが記されます。日蓮宗では、この題目を書いた塔婆を立てることで、その塔婆に触れた風に当たった動植物さえも救われるほどの大きな功徳があると説かれています。 故人だけでなく、周囲のあらゆる生命への慈悲の心が込められているのです。
自分で書く？お寺に依頼する？塔婆の手配方法
お盆の塔婆を用意する際、「自分で書いても良いのだろうか」「お寺に依頼する進め方は？」といった疑問を持つ方もいらっしゃるでしょう。塔婆は故人への大切な供養の証ですから、適切な方法で手配することが肝心です。 自分で書くことも不可能ではありませんが、多くの場合はお寺に依頼するのが一般的です。
ここでは、それぞれの方法のコツや、塔婆料（お布施）に関するマナーについて詳しく解説します。安心して供養の準備を進めるための参考にしてください。
塔婆を自分で書く場合の準備とコツ
塔婆を自分で書くことは、故人への深い思いを込めることができる特別な方法です。しかし、墨と筆を使って木製の板に文字を書くため、ある程度の練習と準備が必要になります。まず、書き損じを防ぐために、半紙などで練習を重ねることが大切です。
文字は、宗派ごとの決まりに沿って、楷書で丁寧に書くように心がけましょう。特に、梵字や戒名、命日などは間違いのないよう、菩提寺から事前に正確な情報を確認しておくことが重要です。また、墨は濃いものを使用し、筆は太字が書けるものを選ぶと良いでしょう。自分で書く場合は、お寺に依頼するよりも費用を抑えられますが、その分、時間と手間がかかることを理解しておく必要があります。
お寺に塔婆の筆耕を依頼する進め方
多くの場合、塔婆の筆耕はお寺に依頼します。 お寺に依頼する最大の利点は、宗派の作法に則った正確な文字で、丁寧に書いてもらえることです。依頼する進め方は、まず菩提寺に連絡し、塔婆を立てたい旨を伝えます。
その際、法要の日時や、塔婆に記載する故人の戒名、命日、施主名などの情報を正確に伝えましょう。 お盆の時期は依頼が集中するため、法要やお盆の予定が決まり次第、早めに連絡を入れることが大切です。 依頼から受け取りまでに時間がかかる場合もあるため、余裕を持った手配を心がけてください。
塔婆料（お布施）の相場と渡し方
塔婆の筆耕をお寺に依頼する際には、「塔婆料（とうばりょう）」を納めます。塔婆料は、お布施とは目的が異なるため、別々に用意するのが一般的です。 塔婆料の相場は、地域や寺院、塔婆のサイズによって異なりますが、一般的には1本あたり2,000円から10,000円程度が目安とされています。
塔婆料は、白無地の封筒に入れるのがマナーです。 表書きには「御塔婆料」「塔婆料」「御塔婆代」と書き、その下に施主の氏名をフルネームで記載します。 中袋がある場合は、表面に金額を旧字体の漢数字で「金伍仟圓」のように書き、裏面に住所と氏名を記入しましょう。 渡すタイミングは、法要の開始前か終了後が望ましいとされています。
直接手渡しするのではなく、切手盆や袱紗（ふくさ）に乗せて渡すのが丁寧な作法です。
お盆以外でも塔婆を立てる機会とタイミング
塔婆は、お盆だけでなく、故人やご先祖様を供養する様々な節目に立てられます。これらの機会に塔婆を立てることは、故人への追善供養となり、生きている私たち自身の善行にもつながると考えられています。 塔婆を立てるタイミングを知ることで、よりきめ細やかな供養を行うことができるでしょう。
ここでは、お盆以外で塔婆を立てる主な機会と、塔婆の準備をいつから始めるべきかについて解説します。大切な供養の機会を逃さないよう、ぜひ参考にしてください。
年忌法要や開眼供養など
お盆以外で塔婆を立てる主な機会は以下の通りです。
- 年忌法要
一周忌、三回忌、七回忌などの年忌法要は、故人を供養する大切な節目です。これらの法要に合わせて塔婆を立てることが一般的です。 - お彼岸
春と秋のお彼岸も、ご先祖様を供養する大切な期間です。この時期にお墓参りをする際に、塔婆を新しく立てる方も多くいらっしゃいます。 - 納骨式
故人の遺骨をお墓に納める納骨式も、塔婆を立てる適切なタイミングの一つです。 - 開眼供養（かいげんくよう）
新しくお墓を建てた際に行われる開眼供養でも、塔婆を立てることがあります。これは、お墓に仏様の魂を宿らせるための大切な儀式です。 - 施餓鬼会（せがきえ）
お盆の時期に行われることが多い施餓鬼会は、餓鬼道に落ちて苦しむ霊や無縁仏を供養する法要です。 この法要に合わせて塔婆を立てることも、大きな功徳につながるとされています。
これらの機会に塔婆を立てることで、故人への思いを新たにし、供養の気持ちを深めることができるでしょう。
塔婆の準備はいつから始めるべきか
塔婆の準備は、法要やお盆の予定が決まり次第、早めに始めることが大切です。特に、お盆やお彼岸の時期は、お寺への依頼が集中し、塔婆の作成に時間がかかる場合があります。
一般的には、法要の2週間前までにはお寺に連絡し、塔婆の申し込みを済ませておくと安心です。 申し込みの際には、故人の戒名や命日、施主名など、塔婆に記載する情報を正確に伝える必要があります。 事前に必要な情報を整理し、間違いのないように準備を進めましょう。また、塔婆料の金額や渡し方についても、この時に確認しておくとスムーズです。
よくある質問
- 塔婆は必ず立てなければいけませんか？
- 塔婆の処分はどうすればいいですか？
- 夫婦で塔婆を立てる場合、施主名はどのように書きますか？
- 塔婆の文字が薄くなったらどうしますか？
- お盆の塔婆はいつまでに用意すれば良いですか？
塔婆は必ず立てなければいけませんか？
塔婆は必ずしも立てなければならないという決まりはありません。宗派や地域、ご家庭の考え方によって異なります。特に浄土真宗では、塔婆を立てる習慣がありません。 塔婆は故人への追善供養の気持ちを形にするものであり、大切なのは故人を偲ぶ心です。もし迷う場合は、菩提寺やご家族と相談して決めるのが良いでしょう。
塔婆の処分はどうすればいいですか？
古くなった塔婆の処分は、お寺や霊園に依頼するのが一般的です。 多くの寺院や霊園では、お焚き上げなどの方法で丁重に処分してくれます。 費用は1本あたり1,000円前後が目安ですが、地域や寺院によって異なりますので、事前に確認しましょう。 自分で燃えるゴミとして処分することも可能とする見解もありますが、故人への供養の気持ちを大切にするのであれば、お寺に依頼するのが安心です。
夫婦で塔婆を立てる場合、施主名はどのように書きますか？
夫婦で塔婆を立てる場合、施主名は「〇〇家」とまとめて書くか、代表者の氏名を記載し、その下に「他一同」と添える方法があります。 複数人で供養する場合は、施主がまとめて申し込み、塔婆料もまとめて渡すのがスマートです。 寺院によっては連名での記載に対応してくれる場合もあるため、事前に相談してみましょう。
塔婆の文字が薄くなったらどうしますか？
塔婆の文字が薄くなっても、すぐに新しいものに交換する必要はありません。塔婆の功徳は法要中の祈りの際に最大となり、その役割を終えるものとされています。 しかし、あまりに古くなり朽ちてしまうと、景観を損ねたり、風で倒れたりする原因にもなります。 次の法要やお盆のタイミングで新しい塔婆を立てる際に、古い塔婆を処分するのが一般的です。
お盆の塔婆はいつまでに用意すれば良いですか？
お盆の塔婆は、お盆入り（8月13日頃）までに用意するのが一般的です。 お盆の時期は寺院が多忙になるため、遅くともお盆の2週間前までにはお寺に申し込みを済ませておくことをおすすめします。 余裕を持って手配することで、安心して供養の準備を進められます。
まとめ
- 塔婆は故人やご先祖様への追善供養の気持ちを形にする大切な習慣です。
- 塔婆の正式名称は卒塔婆で、古代インドの仏塔が起源とされています。
- 塔婆を立てることは、故人の成仏を助け、私たち自身も功徳を積むことにつながります。
- 塔婆の表面には梵字、戒名、命日、回忌などを記載します。
- 塔婆の裏面には施主名と建立年月日を記載するのが一般的です。
- 宗派によって塔婆の書き方や立て方には違いがあります。
- 浄土真宗では基本的に塔婆を立てる習慣がありません。
- 塔婆の筆耕は、多くの場合お寺に依頼するのが安心です。
- お寺に依頼する際は、法要やお盆の予定が決まり次第、早めに連絡しましょう。
- 塔婆料は1本あたり2,000円から10,000円程度が相場です。
- 塔婆料はお布施とは別に、白無地の封筒に入れて渡します。
- 表書きは「御塔婆料」とし、施主名をフルネームで記載します。
- 塔婆料は切手盆や袱紗に乗せて渡すのが丁寧な作法です。
- お盆以外にも、年忌法要やお彼岸、納骨式などで塔婆を立てる機会があります。
- 古くなった塔婆の処分は、お寺や霊園に依頼するのが一般的です。