高齢になると、以前よりも声がかすれる、出にくくなったと感じる方は少なくありません。これは単なる加齢現象と捉えられがちですが、実は様々な原因が考えられ、中には注意が必要な病気が隠れていることもあります。
本記事では、高齢者の声がかすれる主な原因から、ご自宅でできる改善策、そして専門医に相談すべき症状まで、詳しく解説します。声の悩みを解決し、いつまでも豊かな声で会話を楽しめるよう、一緒に考えていきましょう。
高齢者の声がかすれる主な原因とは?

声のかすれは、医学的には「嗄声(させい)」と呼ばれます。声は喉の奥にある声帯が振動することで生まれますが、この声帯に何らかの異常が起きると、声がかすれてしまうのです。高齢者の場合、特にいくつかの特徴的な原因が挙げられます。
声帯の老化(声帯萎縮)
高齢者の声がかすれる最も一般的な原因の一つが、声帯の老化、すなわち声帯萎縮です。声帯は筋肉と粘膜でできており、加齢とともに筋肉が痩せたり、粘膜の弾力性が失われたりします。これにより、声を出す際に声帯がぴったりと閉じなくなり、隙間から息が漏れてかすれた声になるのです。この変化は30代から始まり、年齢を重ねるごとに顕著になる傾向があります。
声の使いすぎや無理な発声
若い頃から声を酷使してきた方や、趣味でカラオケなどを頻繁に楽しまれる方も、声がかすれやすくなります。大声を出したり、無理な発声を続けたりすることで、声帯に炎症が起きたり、ポリープや結節といった良性の腫れものができたりすることがあります。これにより、声帯の振動が妨げられ、声のかすれにつながるのです。
生活習慣(喫煙・飲酒)
長年の喫煙習慣は、声帯に大きな負担をかけます。タバコに含まれるタールなどの刺激物質が声帯に炎症を引き起こしたり、声帯がむくんで腫れたりすることで、声がかすれる原因となります。また、過度な飲酒も喉の乾燥を招き、声帯に刺激を与えるため、声のかすれを引き起こすことがあります。
風邪や喉の炎症
風邪やインフルエンザなどのウイルス感染、あるいは細菌感染によって喉頭に炎症が起こると、声帯が腫れて声がかすれることがあります。これは一時的な症状であることがほとんどですが、炎症が長引くと声帯に負担がかかり、他の問題を引き起こす可能性もあります。
隠れた病気の可能性(声帯ポリープ、喉頭がんなど)
声のかすれは、時に深刻な病気のサインであることもあります。声帯ポリープや声帯結節といった良性の腫瘍のほか、声帯を動かす神経の麻痺(反回神経麻痺)が原因で声がかすれることもあります。この麻痺は、肺がんや甲状腺がん、大動脈瘤などの重大な病気が原因となっている場合があるため、注意が必要です。さらに、喉頭がんの初期症状として声のかすれが現れることもあり、特に喫煙歴のある高齢男性は注意が必要です。
高齢者の声のかすれが引き起こすリスク

声のかすれは、単に声が出しにくいというだけでなく、高齢者の生活の質(QOL)や健康に様々な影響を及ぼす可能性があります。特に注意したいのが、誤嚥性肺炎のリスクや、コミュニケーションの減少による影響です。
誤嚥性肺炎のリスクが高まる
声帯は、声を出す機能だけでなく、食べ物や飲み物が誤って気管に入り込む「誤嚥」を防ぐ重要な役割も担っています。声帯の筋肉が衰えたり、声帯がうまく閉じなくなったりすると、気管の入り口をしっかりと閉じることができなくなり、誤嚥のリスクが高まります。誤嚥を繰り返すことで、食べ物や唾液に含まれる細菌が肺に入り込み、誤嚥性肺炎を引き起こす可能性があり、これは高齢者にとって命に関わる重篤な病気です。
コミュニケーションの減少と認知機能への影響
声がかすれたり、出にくくなったりすると、人との会話が億劫になり、コミュニケーションの機会が減ってしまうことがあります。会話は脳を活性化させる重要な活動であり、コミュニケーションの減少は社会とのつながりを希薄にし、孤立感やうつ状態につながるだけでなく、認知機能の低下を早めるリスクも指摘されています。豊かな声で話すことは、精神的な健康を保つ上でも非常に大切です。
生活の質の低下
声は、自己表現や感情を伝えるための大切な手段です。声のかすれによって、電話での会話が聞き取りにくくなったり、趣味のカラオケや合唱を楽しめなくなったりと、日常生活に様々な支障が生じることがあります。これにより、活動範囲が狭まり、生活の質が大きく低下してしまうことも少なくありません。声の健康を保つことは、充実した毎日を送るための基本と言えるでしょう。
自宅でできる高齢者の声のかすれ改善方法

高齢者の声のかすれは、加齢による変化が主な原因であることが多いですが、日々の生活の中で意識的に取り組むことで、症状の改善や進行の予防が期待できます。ここでは、ご自宅で手軽にできる改善方法をご紹介します。
声帯を鍛える簡単なボイストレーニング
声帯も筋肉の一部ですから、適切に鍛えることでその機能を維持・改善できます。無理なく続けられる簡単なトレーニングから始めてみましょう。
腹式呼吸の練習
声を出すための土台となるのが呼吸です。腹式呼吸を意識することで、肺活量を高め、安定した声を出すための息の量を確保できます。椅子に座り、お腹に手を当てて、鼻からゆっくり息を吸い込みお腹を膨らませ、口からゆっくりと吐き出す練習を繰り返しましょう。
ハミングやリップロール
ハミング(口を閉じて「んー」と声を出す)やリップロール(唇を震わせて「ブー」と音を出す)は、声帯に負担をかけずに声帯を振動させる良い練習です。喉の緊張を和らげ、声帯の柔軟性を高める効果が期待できます。自宅で大きな声が出せない環境でも実践しやすい方法です。
息こらえ練習(声帯を閉じるトレーニング)
声帯をしっかりと閉じる力を高めるための練習です。息を吸い込んだ後、数秒間息を止めて、お腹に力を入れます。この時、声帯がギュッと締まる感覚を意識しましょう。これを繰り返すことで、声帯筋を鍛え、息漏れを減らす助けになります。
喉の乾燥を防ぐ保湿ケア
喉の粘膜が乾燥すると、声帯の動きが悪くなり、声がかすれやすくなります。特に高齢者は唾液の分泌量が減る傾向があるため、意識的な保湿が重要です。こまめに水分を摂ることを心がけ、加湿器を使って室内の湿度を適切に保ちましょう。マスクを着用することも、喉の乾燥対策に有効です。
正しい発声姿勢を意識する
姿勢が悪いと、呼吸が浅くなったり、喉に余計な力が入ったりして、声帯に負担がかかることがあります。背筋を伸ばし、肩の力を抜いてリラックスした姿勢で話すことを意識しましょう。特に猫背の姿勢は、肺から上がってくる空気を妨げ、声の響きに影響を与えることがあります。
積極的に会話や歌を楽しむ
声帯も使わなければ衰えてしまいます。日頃から積極的に会話をしたり、好きな歌を歌ったりすることは、声帯の筋肉を活動させ、その機能を維持するために非常に大切です。友人や家族との交流を増やし、声を使う機会を意識的に設けるようにしましょう。これは、誤嚥性肺炎の予防や認知機能の維持にもつながります。
専門医に相談すべき症状と受診の目安

自宅でのケアやトレーニングで改善が見られない場合や、特定の症状を伴う場合は、自己判断せずに専門医の診察を受けることが重要です。声のかすれは、時に重大な病気のサインである可能性もあるため、早めの受診が大切です。
2週間以上声のかすれが続く場合
風邪や一時的な声の使いすぎによる声のかすれは、通常数日から1週間程度で改善することが多いです。しかし、特に原因が思い当たらないのに2週間以上声のかすれが続く場合は、声帯ポリープや声帯結節、喉頭がんなどの病気が隠れている可能性があります。耳鼻咽喉科を受診し、声帯の状態を詳しく診てもらいましょう。
飲み込みにくさやむせを伴う場合
声のかすれとともに、食事中にむせやすくなったり、食べ物や飲み物が飲み込みにくくなったりする症状がある場合は、嚥下機能の低下が考えられます。これは誤嚥性肺炎のリスクを高めるため、速やかに耳鼻咽喉科や嚥下外来のある医療機関を受診してください。
体重減少や呼吸困難がある場合
声のかすれに加えて、意図しない体重減少や、息苦しさ、呼吸困難などの症状がある場合は、喉頭がんや肺がん、食道がんなど、より重篤な病気が進行している可能性も考えられます。これらの症状が見られる場合は、緊急性が高いため、すぐに医療機関を受診してください。
喫煙歴がある方
喫煙は喉頭がんの最大の危険因子の一つです。特に40歳以上の喫煙者の方で声のかすれがある場合は、喉頭がんのリスクが高いため、症状の軽重にかかわらず、一度耳鼻咽喉科で精密検査を受けることを強くおすすめします。早期発見・早期治療が非常に重要です。
よくある質問
高齢者の声のかすれに関して、多くの方が抱える疑問にお答えします。
高齢者の声のかすれは自然に治りますか?
加齢による声帯の萎縮が原因の場合、完全に元の状態に戻ることは難しいですが、適切なケアやトレーニングを続けることで、症状の改善や進行の抑制は十分に可能です。風邪など一時的な原因であれば、自然に治ることもあります。しかし、2週間以上続く場合は、専門医の診察を受けることが大切です。
声帯萎縮は治せますか?
声帯萎縮自体を完全に「治す」というよりは、残された声帯の機能を最大限に引き出し、声の質を改善するための治療やトレーニングが行われます。音声治療(ボイストレーニング)で声帯の筋肉を鍛えたり、重症例では声帯にヒアルロン酸や脂肪などを注入する手術が検討されることもあります。
どんな病院に行けば良いですか?
声のかすれの症状がある場合は、まず耳鼻咽喉科を受診しましょう。耳鼻咽喉科では、内視鏡を使って声帯の状態を直接観察し、正確な診断を下すことができます。必要に応じて、言語聴覚士による音声治療や、他の専門医への紹介も行われます。
声を出すことが苦手でもできるトレーニングはありますか?
はい、あります。大きな声を出すのが苦手な方でも、ハミングやリップロール、腹式呼吸の練習など、喉に負担をかけずにできるトレーニングはたくさんあります。また、ストローを使った発声練習も、声帯に優しいトレーニングとして知られています。無理のない範囲で、毎日少しずつ続けることが大切です。
誤嚥性肺炎の予防にもなりますか?
はい、声帯のトレーニングは誤嚥性肺炎の予防にもつながります。声帯を鍛えることで、気管の入り口を閉じる機能が向上し、誤嚥のリスクを減らすことができます。また、積極的に会話や歌を楽しむことも、喉の筋肉を活動させ、嚥下機能の維持に役立ちます。
まとめ
- 高齢者の声のかすれは、声帯の老化(声帯萎縮)が主な原因です。
- 声の使いすぎ、喫煙・飲酒などの生活習慣も声のかすれを引き起こします。
- 風邪や喉の炎症だけでなく、喉頭がんなど重篤な病気が隠れている可能性もあります。
- 声のかすれは、誤嚥性肺炎のリスクを高め、コミュニケーションや生活の質を低下させます。
- 自宅でできる改善策として、声帯を鍛えるボイストレーニングが有効です。
- 腹式呼吸、ハミング、リップロール、息こらえ練習などを試してみましょう。
- 喉の乾燥を防ぐ保湿ケアや、正しい発声姿勢も大切です。
- 積極的に会話や歌を楽しむことで、声帯の機能を維持できます。
- 2週間以上続くかすれ声や、飲み込みにくさを伴う場合は耳鼻咽喉科を受診しましょう。
- 体重減少や呼吸困難がある場合は、速やかに医療機関へ。
- 喫煙歴のある方は、喉頭がんのリスクがあるため特に注意が必要です。
- 声帯萎縮は完全に治すのは難しいですが、改善や進行抑制は可能です。
- 耳鼻咽喉科で診断を受け、必要に応じて音声治療や手術を検討します。
- 声のケアは、健康寿命を延ばし、充実した毎日を送るための重要な要素です。
