古文を読んでいると、「あつしく」という言葉に出会うことがありますよね。しかし、この「あつしく」が何を意味するのか、どのように使われるのか、迷ってしまう方も少なくないでしょう。現代語の「あつい」にも様々な意味があるように、古語の「あつし」も複数の漢字と意味を持ち、その連用形である「あつしく」も文脈によって理解が変わってきます。
本記事では、古語の「あつしく」が持つ本当の意味や、その活用、そして他の「あつし」との見分け方を分かりやすく解説します。古典文学の例文を通して、具体的な使い方を学ぶことで、あなたの古文読解の悩みを解決する手助けとなるでしょう。一緒に「あつしく」の奥深さを探り、古文の世界をより深く楽しみましょう。
古語「あつしく」の基本的な意味と現代語訳

古文に登場する「あつしく」という言葉は、主に形容詞「篤し(あつし)」の連用形として使われます。この「篤し」が持つ意味を理解することが、「あつしく」を正しく読み解く第一歩となります。古典文学において頻繁に用いられる表現なので、その意味とニュアンスをしっかりと把握しておきましょう。
「あつしく」は「篤し」の連用形
「あつしく」は、古語の形容詞「篤し」が連用形になった形です。形容詞の連用形は、動詞や他の形容詞、副詞に連なって、その状態や程度を詳しく説明する役割を果たします。特に「篤し」はシク活用という種類の形容詞であり、その連用形は「あつしく」となります。この活用形を覚えることは、古文の文法を理解する上で非常に重要です。
「篤し」が持つ「病気が重い・病気がちである」の意味
古語の「篤し」は、「病気が重い」や「病気がちである」という意味合いで用いられることがほとんどです。現代語の「篤い(あつい)」が「信仰心が篤い」のように精神的な深さや熱心さを表すのに対し、古語の「篤し」は主に身体的な状態、特に病状の重さを指すのが特徴です。そのため、「あつしく」と出てきた場合、多くは「病気が重く」や「病気がちで」と解釈できます。
現代語訳で理解する「あつしく」のニュアンス
「あつしく」を現代語訳する際には、単に「病気が重く」と訳すだけでなく、その背景にある登場人物の心情や状況を汲み取ることが大切です。例えば、「いとあつしくなりゆき」という表現であれば、「たいそう病気が重くなっていき」と訳せますが、そこには病状の悪化に対する不安や、周囲の心配といったニュアンスが含まれていることがあります。
文脈全体から、より適切な現代語訳を選ぶように心がけましょう。
混同しやすい「あつし」の識別方法

古文には「あつし」と読む形容詞が複数存在するため、「あつしく」という形で出会った際に、どの「あつし」を指しているのか迷うことがあります。しかし、それぞれの「あつし」には明確な違いがあり、特に活用形に注目することで、正確に識別することが可能です。ここでは、混同しやすい「あつし」の種類と、その見分け方について詳しく見ていきましょう。
「厚し」「熱し」「暑し」との違いを明確にする
「あつし」と読む古語には、「篤し」の他に「厚し」「熱し」「暑し」があります。これらの「あつし」は、それぞれ異なる意味を持っています。「厚し」は物の厚さや情の深さを、「熱し」は物の温度が高いことや熱がある状態を、「暑し」は気温が高いことを表します。これらは現代語の「厚い」「熱い」「暑い」とほぼ同じ意味合いです。
これらの「あつし」は全てク活用形容詞であり、連用形は「あつく」となります。一方、「篤し」はシク活用形容詞であり、連用形は「あつしく」となるため、活用形が識別する上での大きな手がかりとなります。
活用形「あつしく」が示す「篤し」の特徴
「あつしく」という活用形は、シク活用形容詞「篤し」に特有の形です。ク活用形容詞の連用形が「あつく」となるのに対し、シク活用形容詞は「あつしく」となります。この「く」の前の音が「し」であるか「つ」であるかが、見分ける際の決定的なポイントです。したがって、古文で「あつしく」という形を見かけたら、それは「病気が重い・病気がちである」という意味の「篤し」であると判断してほぼ間違いありません。
ク活用とシク活用の見分け方
ク活用とシク活用の形容詞を見分けるには、連用形が「~く」となるか「~しく」となるかが最も分かりやすい方法です。また、未然形が「~から」となるのがク活用、未然形が「~しから」となるのがシク活用という違いもあります。さらに、意味合いの傾向として、ク活用は「物体的・客観的」な形容詞が多く、シク活用は「心情的・主観的」な形容詞が多いという説もあります。
例えば、「熱し」は客観的な温度を表すためク活用、「篤し」は病という主観的な状態を表すためシク活用と考えると、理解が深まるでしょう。
古典文学における「あつしく」の用例

古語「あつしく」の理解を深めるためには、実際の古典文学作品の中でどのように使われているかを知ることが欠かせません。具体的な例文を通して、その意味やニュアンス、そして登場人物の状況を読み解くことで、より実践的な古文読解の力が身につきます。ここでは、特に有名な作品から「あつしく」の用例を見ていきましょう。
源氏物語に見る「あつしく」の表現
『源氏物語』は、「あつしく」が頻繁に登場する代表的な作品の一つです。特に、桐壺の巻では、桐壺更衣が周囲の嫉妬や嫌がらせによって心身を病み、「いとあつしくなりゆき」と表現される場面があります。これは「たいそう病気が重くなっていき」と現代語訳され、彼女の悲劇的な運命を象徴する言葉として用いられています。
このように、『源氏物語』では、登場人物の健康状態や精神的な苦悩を描写する際に「あつしく」が効果的に使われています。
増鏡など他の作品での使用例
『増鏡』にも「あつしく」の用例が見られます。例えば、「常はあつしうおはしまするを」という一節は、「いつも病気がちでいらっしゃるので」と訳されます。ここで使われている「あつしう」は、「あつしく」がウ音便化した形であり、意味は同じく「病気がちで」となります。 このように、様々な古典作品で「あつしく」やその音便形が、登場人物の病状や体調不良を表すために用いられてきました。
多くの作品に触れることで、その使われ方の多様性を感じ取ることができます。
実際の文脈から意味を読み解くコツ
「あつしく」の意味を正確に読み解くには、単語の意味だけでなく、文脈全体を把握することが重要です。誰が、どのような状況で「あつしく」なっているのか、その後の展開はどうなるのか、といった点に注目しましょう。例えば、病気が重いことを示す「あつしく」の後に、看病の様子や死を予感させる描写が続くこともあります。
また、敬語表現と組み合わされることで、その人物の身分や状況がより鮮明に浮かび上がることもあります。
古文単語「あつし」を効率的に覚えるコツ

古文単語の学習は、多くの人にとって難しいと感じるかもしれません。特に「あつし」のように複数の意味や活用形を持つ単語は、効率的な学習方法を取り入れることが大切です。ここでは、「あつし」を確実に記憶し、古文読解に役立てるための具体的なコツをご紹介します。これらの方法を実践して、古文学習をよりスムーズに進めましょう。
語呂合わせやイメージで記憶する
古文単語を覚えるには、語呂合わせやイメージを活用するのが効果的です。「篤し(あつし)」であれば、「あのつらいしくし(病気)は重い」のように、意味と活用形を組み合わせた語呂合わせを自分で作ってみるのも良いでしょう。
また、病床に伏せる人物の姿や、看病する人の様子を頭の中で具体的にイメージすることで、単語と意味が強く結びつき、忘れにくくなります。視覚的な情報と結びつけることで、記憶の定着を早めることが可能です。
例文を通して定着させる学習方法
単語帳で意味だけを覚えるよりも、実際の例文の中で「あつし」がどのように使われているかを学ぶ方が、記憶に残りやすく、実践的な理解につながります。特に『源氏物語』や『増鏡』など、有名な古典作品の例文に繰り返し触れることで、「あつしく」が使われる典型的な文脈やニュアンスを自然と身につけることができます。例文を音読し、現代語訳と照らし合わせながら、文の構造を意識する学習方法がおすすめです。
古典文法と合わせて理解する重要性
「あつし」のような形容詞は、その活用形が意味の識別に直結するため、古典文法と切り離して考えることはできません。ク活用とシク活用の違い、連用形がどのような役割を果たすのかといった文法事項をしっかりと理解することで、「あつしく」が「篤し」の連用形であり、「病気が重く」という意味になることが論理的に納得できます。
文法的な根拠を理解することで、単なる丸暗記ではなく、応用力のある知識として定着させることが可能です。
よくある質問

古語「あつしく」について、学習者の方々からよく寄せられる質問とその回答をまとめました。これらの疑問を解決することで、「あつしく」に対する理解がさらに深まり、古文読解の自信につながるでしょう。
- 「あつしく」は副詞として使われますか?
- 「あつしく」の対義語はありますか?
- 「あつしく」は現代語の「熱心に」と関係がありますか?
- 古文の「あつし」は全て「病気が重い」という意味ですか?
- 「あつしく」と「あつしう」の違いは何ですか?
「あつしく」は副詞として使われますか?
「あつしく」は、形容詞「篤し」の連用形であり、文法的には副詞的な働きをします。動詞や他の形容詞、副詞を修飾して、その状態や程度を詳しく説明する役割を担います。例えば、「あつしくなりゆき」であれば、「なりゆき(なっていく)」という動詞を修飾し、「病気が重く」という状態を表しています。このように、連用形は副詞と同じような働きをすると理解しておくと良いでしょう。
「あつしく」の対義語はありますか?
「あつしく」が「病気が重く」という意味であるため、直接的な対義語としては「病気が軽く」や「健康で」といった意味合いの言葉が考えられます。古語では「やすし(安し)」が「心安らかである、穏やかである」という意味で使われることがあり、病気とは異なる文脈ですが、心身の平穏を表す言葉として対比的に捉えることもできます。
「あつしく」は現代語の「熱心に」と関係がありますか?
古語の「あつしく」は、現代語の「熱心に」とは直接的な関係はありません。現代語の「熱心に」は「熱心(ねっしん)」という漢語に由来し、物事に打ち込む様子を表します。一方、古語の「あつしく」は形容詞「篤し」の連用形であり、主に「病気が重い」という意味で用いられます。発音は似ていますが、意味も語源も異なるため注意が必要です。
古文の「あつし」は全て「病気が重い」という意味ですか?
いいえ、古文の「あつし」は全て「病気が重い」という意味ではありません。前述の通り、「厚し(あつし)」「熱し(あつし)」「暑し(あつし)」といった同音異義の形容詞が存在します。これらはそれぞれ「厚い」「熱い」「暑い」という意味を持ち、ク活用形容詞です。文脈や活用形(特に連用形が「あつく」か「あつしく」か)によって、どの「あつし」であるかを正確に判断する必要があります。
「あつしく」と「あつしう」の違いは何ですか?
「あつしく」と「あつしう」は、どちらも形容詞「篤し」の連用形ですが、音便化の有無による違いです。「あつしく」が本来の連用形であるのに対し、「あつしう」は「く」が「う」に変化したウ音便の形です。意味に違いはなく、発音しやすいように変化したものです。古典作品では、どちらの形も使われることがあります。
まとめ
- 古語の「あつしく」は、形容詞「篤し」の連用形です。
- 「篤し」の主な意味は「病気が重い」「病気がちである」です。
- 「あつしく」は「病気が重く」「病気がちで」と現代語訳されます。
- 「厚し」「熱し」「暑し」も「あつし」と読みますが、これらはク活用です。
- 「篤し」はシク活用であり、連用形が「あつしく」となる点で区別できます。
- ク活用形容詞の連用形は「あつく」となります。
- シク活用形容詞の連用形は「あつしく」となります。
- 『源氏物語』や『増鏡』などの古典文学に用例が多く見られます。
- 文脈全体から意味を読み解くことが重要です。
- 語呂合わせやイメージで覚えるコツがあります。
- 例文を通して学習することで、記憶が定着しやすくなります。
- 古典文法(活用)の理解が正確な識別に不可欠です。
- 「あつしく」は副詞的な働きをします。
- 「あつしく」に直接的な対義語はありませんが、「やすし」などが対比されます。
- 「あつしく」と「あつしう」はウ音便化の有無による違いで、意味は同じです。
