アルツハイマー病による軽度認知障害や軽度の認知症と診断され、新しい治療薬「ケサンラ」について調べている方へ。この治療は、病気の進行を遅らせる可能性を秘めていますが、その効果を最大限に引き出し、安全に治療を進めるためには、正しい知識が不可欠です。
本記事では、ケサンラの基本的な働きから具体的な投与方法、注意すべき副作用、そして治療にかかる費用まで、患者さんとご家族が安心して治療に臨めるよう、分かりやすく解説します。ケサンラによる治療を検討している方、すでに治療を始めている方にとって、日々の疑問や不安を解消する一助となれば幸いです。
ケサンラとはアルツハイマー病治療における新しい選択肢

ケサンラ(一般名:ドナネマブ)は、アルツハイマー病による軽度認知障害および軽度の認知症の進行を抑制するために開発された新しいタイプの治療薬です。この薬は、病気の原因と考えられている脳内のアミロイドβプラークを除去することで、認知機能の低下を遅らせることを目指します。従来の対症療法とは異なり、病気の根本原因にアプローチする点が大きな特徴と言えるでしょう。
ケサンラの働きと期待される効果
ケサンラは、脳内に蓄積するアミロイドβプラークの中でも、特にN3pG Aβと呼ばれる特定の形態のプラークを標的とするヒト化モノクローナル抗体製剤です。この抗体がアミロイドβプラークに結合することで、ミクログリア(脳の免疫細胞)によるプラークの除去を促進すると考えられています。その結果、脳内のアミロイドβプラークが減少し、アルツハイマー病の進行をゆるやかにする効果が期待されています。
病気の進行を遅らせることで、患者さんの認知機能や日常生活動作をより長く維持することが、この治療の重要な目的です。
ケサンラが対象とする患者さん
ケサンラによる治療の対象となるのは、アルツハイマー病による軽度認知障害、または軽度の認知症と診断された患者さんです。具体的には、アミロイドPET検査や脳脊髄液(CSF)検査などの精密な診断方法により、脳内にアミロイドβ病理が確認されていることが条件となります。無症状の方や、中等度以降の認知症患者さんには投与されません。
治療開始前には、アルツハイマー病の病態、診断、治療に関する十分な知識と経験を持つ医師が、患者さんの状態を慎重に評価し、本剤の投与が適切であるかを判断します。
ケサンラの投与方法と治療スケジュール
ケサンラは、静脈内点滴によって投与される薬剤です。治療を安全かつ効果的に進めるためには、定められた投与方法とスケジュールを正確に守ることが非常に大切です。患者さんやご家族は、治療の進め方について事前にしっかりと理解しておくことで、安心して治療に臨むことができます。
具体的な投与手順と投与間隔
ケサンラの投与は、医療機関で静脈点滴として行われます。通常、初回は1本(主成分として350mg)、2回目は2本(700mg)、3回目は3本(1,050mg)を投与し、その後は1回4本(1,400mg)を4週間隔で投与します。点滴時間は、少なくとも30分かけて行われます。投与スケジュールは患者さんの状態や治療の進捗によって調整されることがあるため、必ず医師の指示に従ってください。
治療期間と終了の目安
ケサンラの治療期間は、原則として最長18ヵ月とされています。しかし、治療開始後12ヵ月の時点でアミロイドPET検査などにより脳内のアミロイドβプラークの除去が確認された場合は、その時点で投与を完了することが可能です。これは、アミロイドβプラークが十分に除去されれば、それ以上の投与は不要と判断されるためです。
治療の終了時期については、定期的な検査結果に基づき、医師と十分に話し合い、決定することになります。
治療を受ける上で知っておきたい副作用と注意点

ケサンラによる治療は、アルツハイマー病の進行を抑制する効果が期待される一方で、いくつかの注意すべき副作用があります。特に「アミロイド関連画像異常(ARIA)」は、この種の薬剤に共通して見られる重要な副作用であり、その症状や対処法について理解しておくことが、安全な治療には欠かせません。
アミロイド関連画像異常(ARIA)とは
ARIA(Amyloid-Related Imaging Abnormalities)は、ケサンラのような抗アミロイドβ抗体薬の投与中に見られる脳の画像上の異常所見の総称です。ARIAには、脳のむくみ(ARIA-E)と、脳の微小な出血や脳表ヘモジデリン沈着症(ARIA-H)の2種類があります。これらの異常は、アミロイドβプラークが除去される過程で、一時的に脳の血管から血液や血漿が漏れ出すことで起こると考えられています。
ARIAの症状と早期発見のためのMRI検査
ARIAは、多くの場合、自覚症状がないまま進行することがあります。しかし、頭痛、錯乱、吐き気、嘔吐、ふらつき、めまい、視覚障害、言語障害、認知機能の悪化、意識変容、発作などの症状があらわれる可能性もあります。これらの症状に気づいた場合は、速やかに医療機関に連絡することが大切です。ARIAを早期に発見し、適切な対応を取るためには、治療中に定期的なMRI検査が不可欠です。
特に治療開始から24週間以内はARIAの発現が多く、より頻繁なMRI検査が推奨されます。
特に注意が必要な併用薬と既往歴
ケサンラの投与に際しては、特定の併用薬や既往歴がある場合に注意が必要です。例えば、血栓ができるのを防ぐ薬(ワルファリンカリウム、アスピリン、クロピドグレル硫酸塩など)や、血栓を溶かす薬(アルテプラーゼなど)を併用している場合、脳出血のリスクが高まる可能性があります。また、治療開始前に血管原性脳浮腫が確認された患者さん、5個以上の脳微小出血、脳表ヘモジデリン沈着症、または1cmを超える脳出血が確認された患者さんは、ARIAのリスクが高まるため、ケサンラの投与が禁忌となる場合があります。
治療開始前には、必ず医師に現在服用している薬や既往歴を正確に伝えるようにしましょう。
ケサンラと他のアルツハイマー病治療薬との比較

アルツハイマー病の治療薬には、ケサンラ以外にもいくつかの選択肢があります。特に、同じくアミロイドβを除去する作用を持つ「レケンビ(一般名:レカネマブ)」との違いは、患者さんやご家族が治療法を選択する上で重要なポイントとなります。それぞれの薬の特徴を理解し、ご自身に合った治療法を見つけることが大切です。
レケンビとの違いとケサンラの強み
ケサンラとレケンビは、どちらも脳内のアミロイドβプラークを除去することでアルツハイマー病の進行を抑制する抗体医薬品ですが、いくつかの違いがあります。ケサンラは、レケンビと比較して投与頻度が少なく、4週間に1回の点滴で済みます。レケンビは2週間に1回の投与が必要です。また、ケサンラはアミロイドβプラークの除去が確認されれば、原則18ヵ月よりも早く治療を完了できる可能性があります。
投与頻度の少なさや治療期間の柔軟性は、患者さんの負担軽減につながるケサンラの大きな強みと言えるでしょう。
治療選択のポイント
アルツハイマー病の治療薬を選ぶ際には、薬の効果や副作用だけでなく、投与方法、治療期間、費用、そして患者さんのライフスタイルや医療機関の体制など、様々な要素を総合的に考慮することが重要です。ケサンラは投与頻度が少ないため、通院の負担を減らしたいと考える患者さんには魅力的な選択肢となるかもしれません。しかし、どちらの薬剤も定期的なMRI検査による副作用のモニタリングが必須であり、専門的な知識と体制が整った医療機関での治療が求められます。
最終的な治療の決定は、患者さんの状態や希望、そして医師との十分な話し合いに基づいて行うことが最も大切です。
ケサンラ治療にかかる費用と医療費助成制度

ケサンラによるアルツハイマー病治療は、その効果が期待される一方で、薬剤費が高額になる傾向があります。しかし、日本には高額療養費制度をはじめとする医療費助成制度が充実しており、これらの制度を上手に活用することで、患者さんの経済的負担を軽減することが可能です。治療を始める前に、費用についてもしっかりと確認しておきましょう。
薬価と年間治療費の目安
ケサンラ点滴静注液350mgの薬価は、1瓶あたり66,948円です。体重50kgの患者さんが1年間治療を受けた場合、年間治療費は約308万円と試算されています。これは薬剤費のみの金額であり、これに加えて診察料、検査費用(特に定期的なMRI検査費用)、点滴の実施費用などがかかります。高額な治療費に不安を感じるかもしれませんが、後述する医療費助成制度を利用することで、自己負担額を抑えることができます。
高額療養費制度の活用方法
高額療養費制度は、医療機関や薬局の窓口で支払った医療費が、ひと月の上限額を超えた場合に、その超えた額が支給される制度です。上限額は、年齢や所得によって異なります。ケサンラのような高額な治療を受ける場合、この制度を適用することで、自己負担額を大幅に軽減することが可能です。制度の利用には、加入している健康保険組合や市町村の窓口で申請手続きが必要です。
事前に「限度額適用認定証」を取得しておけば、窓口での支払いを上限額までに抑えることもできます。また、自治体によっては、特定の疾病に対する医療費助成制度を設けている場合もあるため、お住まいの地域の情報を確認することもおすすめします。
よくある質問

- ケサンラはどのような薬ですか?
- ケサンラの投与期間はどのくらいですか?
- ケサンラの副作用には何がありますか?
- ケサンラとレケンビの違いは何ですか?
- ケサンラはどこで治療を受けられますか?
- ケサンラの費用はどのくらいですか?
- ケサンラの投与を忘れてしまったらどうすればいいですか?
- 妊娠中や授乳中にケサンラを使用できますか?
ケサンラはどのような薬ですか?
ケサンラ(一般名:ドナネマブ)は、アルツハイマー病の原因とされる脳内のアミロイドβプラークを除去することで、軽度認知障害および軽度の認知症の進行を抑制する効果が期待される点滴薬です。
ケサンラの投与期間はどのくらいですか?
ケサンラの治療期間は原則として最長18ヵ月ですが、治療開始後12ヵ月の時点でアミロイドPET検査により脳内のアミロイドβプラークの除去が確認された場合は、その時点で投与を完了することが可能です。
ケサンラの副作用には何がありますか?
ケサンラの主な副作用として、アミロイド関連画像異常(ARIA)があります。これは脳のむくみ(ARIA-E)や脳の微小な出血(ARIA-H)としてMRI検査で確認されるものです。多くは無症状ですが、頭痛、錯乱、吐き気などの症状があらわれることもあります。その他、点滴に伴う反応(発疹、寒気、吐き気など)が初期にあらわれることがあります。
ケサンラとレケンビの違いは何ですか?
ケサンラとレケンビはどちらもアミロイドβプラークを除去するアルツハイマー病治療薬ですが、ケサンラは4週間に1回の投与であるのに対し、レケンビは2週間に1回の投与が必要です。また、ケサンラはアミロイドプラークの除去が確認されれば治療を早期に完了できる可能性があります。
ケサンラはどこで治療を受けられますか?
ケサンラの投与は、アミロイドPETやMRIなどの必要な検査と管理が実施可能な医療施設、またはそれらの施設と連携できる医療施設において、アルツハイマー病の治療に十分な知識と経験を持つ医師のもとで行われます。
ケサンラの費用はどのくらいですか?
ケサンラ点滴静注液350mgの薬価は1瓶66,948円です。体重50kgの患者さんの年間治療費は、薬剤費のみで約308万円と試算されています。高額療養費制度などの医療費助成制度を利用することで、自己負担額を軽減できます。
ケサンラの投与を忘れてしまったらどうすればいいですか?
ケサンラの投与を忘れてしまった場合は、自己判断で次の投与量を増やしたり、投与間隔を変更したりせず、速やかに主治医または薬剤師に連絡し、指示を仰いでください。
妊娠中や授乳中にケサンラを使用できますか?
妊娠中または妊娠している可能性のある女性には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与されます。授乳中の女性については、治療上の有益性および母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続または中止を検討することとされています。必ず医師と相談してください。
まとめ
- ケサンラはアルツハイマー病による軽度認知障害・軽度認知症の進行を抑制する薬剤です。
- 脳内のアミロイドβプラークを除去することで効果を発揮します。
- 日本イーライリリーが製造販売しています。
- 投与は4週間に1回の静脈点滴で行われます。
- 治療期間は原則最長18ヵ月ですが、プラーク除去で早期終了も可能です。
- 主な副作用はアミロイド関連画像異常(ARIA)です。
- ARIAには脳のむくみ(ARIA-E)と微小出血(ARIA-H)があります。
- ARIAの早期発見のため、定期的なMRI検査が必須です。
- 頭痛や錯乱などの症状があれば速やかに医療機関へ連絡しましょう。
- 抗血栓薬との併用は脳出血のリスクを高める可能性があります。
- レケンビと比較して投与頻度が少ない点が特徴です。
- 薬価は高額ですが、高額療養費制度が適用されます。
- 治療は専門知識を持つ医師と設備が整った医療機関で行われます。
- 妊娠中や授乳中の使用は医師との相談が必要です。
- 投与忘れの際は自己判断せず、医師に相談しましょう。
