古典文法を学ぶ上で、形容詞の「ク活用」と「シク活用」の区別は多くの人がつまずきやすいポイントです。しかし、この二つの活用を正確に見分けることは、古文の読解力を高める上で非常に重要となります。本記事では、ク活用とシク活用の基本的な知識から、具体的な見分け方、そして実践的な練習方法までを徹底的に解説します。
ク活用とシク活用とは?古典文法の基本を押さえよう
古典文法における形容詞の活用は、現代語とは異なる独特のルールを持っています。特に「ク活用」と「シク活用」は、形容詞がどのような形に変化するかを示す重要な分類です。この二つの活用を理解することは、古文を正確に読み解くための第一歩と言えるでしょう。
形容詞の活用とは?その重要性
形容詞とは、物事の性質や状態を表す言葉で、現代語では「美しい」「高い」のように「い」で終わります。しかし、古文では終止形が「〜し」となるのが特徴です。例えば、現代語の「高い」は古文では「高し」となり、現代語の「美しい」は古文では「美し」となります。この形容詞は、後に続く言葉によって語尾が変化し、この変化の仕方を「活用」と呼びます。
活用の種類を正しく見分けることは、古文の文章構造を理解し、正確な意味を把握するために欠かせない知識です。
ク活用の基本的な特徴と活用表
ク活用は、形容詞の活用形式の一つです。多くの形容詞がこの活用に属し、連用形が「〜く」となるのが特徴です。例えば、「高し」という形容詞は「高く」と変化します。ク活用には、通常の「本活用」と、助動詞が続く場合に用いられる「補助活用(カリ活用)」の二つのパターンがあります。カリ活用は、ラ行変格活用動詞「あり」が連用形「く」に接続して変化したものです。
以下に、ク活用の活用表を示します。
- 未然形: (く)から
- 連用形: く かり
- 終止形: し 〇
- 連体形: き かる
- 已然形: けれ 〇
- 命令形: 〇 かれ
シク活用の基本的な特徴と活用表
シク活用も形容詞の活用形式の一つで、連用形が「〜しく」となるのが特徴です。例えば、「美し」という形容詞は「美しく」と変化します。シク活用もク活用と同様に、通常の「本活用」と、助動詞が続く場合に用いられる「補助活用(シカリ活用)」の二つのパターンがあります。シク活用に属する形容詞は、情意的な意味を持つものが多い傾向にあります。
以下に、シク活用の活用表を示します。
- 未然形: (しく)しから
- 連用形: しく しかり
- 終止形: し 〇
- 連体形: しき しかる
- 已然形: しけれ 〇
- 命令形: 〇 しかれ
ク活用とシク活用の決定的な見分け方

ク活用とシク活用を見分けることは、古文読解の精度を高める上で非常に重要です。いくつかの見分け方がありますが、最も確実で実践的な方法を身につけることが、古典文法をスムーズに理解するコツとなります。ここでは、その決定的な見分け方を詳しく解説します。
「なる」を付けて判断する見分け方
ク活用とシク活用を見分ける最も一般的で分かりやすい方法は、形容詞の後に動詞「なる」を付けてみることです。
具体的には、以下のようになります。
- 「〜くなる」となる場合 → ク活用
- 「〜しくなる」となる場合 → シク活用
例えば、「高し」に「なる」を付けると「高くなる」となるため、これはク活用です。一方、「美し」に「なる」を付けると「美しくなる」となるため、これはシク活用と判断できます。この方法は、多くの形容詞に適用できるため、最初に試すべき見分け方と言えるでしょう。
語幹の末尾に注目する見分け方
形容詞の語幹の末尾に注目することも、見分け方の一つです。ただし、この方法は「なる」を付ける方法よりも少し複雑で、例外もあるため注意が必要です。語幹とは、活用しても変化しない部分を指します。
一般的に、以下の傾向があります。
- 語幹の末尾が「し」以外で終わる形容詞 → ク活用が多い(例:高し → 語幹「高」)
- 語幹の末尾が「し」で終わる形容詞 → シク活用が多い(例:悲し → 語幹「悲」)
しかし、「深し」のように語幹が「深」で「し」以外で終わるにもかかわらずク活用である例や、「幼し」のように語幹が「幼」で「し」以外で終わるにもかかわらずク活用である例も存在します。そのため、この方法はあくまで参考程度にとどめ、「なる」を付ける方法を優先するのが賢明です。
カリ活用・シカリ活用との関連性で理解を深める
形容詞には、本活用とは別に「補助活用」と呼ばれる活用があります。ク活用には「カリ活用」、シク活用には「シカリ活用」が存在し、これらは主に助動詞が接続する際に用いられます。
カリ活用は、ク活用の連用形「〜く」にラ行変格活用動詞「あり」が結合して「〜かり」となったものです。同様に、シカリ活用はシク活用の連用形「〜しく」に「あり」が結合して「〜しかり」となったものです。
この補助活用の形を知っていると、文章中で助動詞に接続している形容詞がどちらの活用であるかを判断する助けになります。
例えば、「よからず」という形であれば「よし」のカリ活用未然形であり、ク活用だと分かります。活用の全体像を理解する上で、補助活用の知識は役立つでしょう。
例文で実践!ク活用とシク活用の見分け方トレーニング

理論を理解するだけでは、実際の古文を読み解く際に迷ってしまうことがあります。そこで、具体的な例文を通してク活用とシク活用の見分け方を実践的にトレーニングすることが大切です。多くの例文に触れ、繰り返し練習することで、自然と見分けられるようになります。
ク活用の形容詞を使った例文
ク活用の形容詞は、事物の性質や状態を客観的に表すことが多いです。以下の例文で、ク活用の特徴を確認してみましょう。
- 「山高し。」(山が高い。)
- 「水清く流る。」(水が清らかに流れる。)
- 「心安からず。」(心が穏やかではない。)
- 「よき友を持つ。」(良い友を持つ。)
- 「重くて持てず。」(重くて持てない。)
これらの例文では、「高し」「清し」「安し」「よし」「重し」といった形容詞がク活用しています。特に「〜く」の形や「〜から」「〜かり」といった補助活用の形に注目すると、ク活用の特徴がよく分かります。
シク活用の形容詞を使った例文
シク活用の形容詞は、感情や情意的な意味合いを表すことが多い傾向にあります。以下の例文で、シク活用の特徴を確認してみましょう。
- 「花美し。」(花が美しい。)
- 「人悲しく思う。」(人が悲しく思う。)
- 「恋しき人を見る。」(恋しい人を見る。)
- 「嬉しかりけり。」(嬉しかった。)
- 「怪しくて近寄らず。」(怪しくて近寄らない。)
これらの例文では、「美し」「悲し」「恋し」「嬉し」「怪し」といった形容詞がシク活用しています。連用形が「〜しく」となる点や、補助活用で「〜しかり」となる点に注目すると、シク活用の判別が容易になります。
練習問題で理解度をチェック
いくつかの例文を見て、どちらの活用か判断する練習をしてみましょう。形容詞の後に「なる」を付けてみるのが最も確実な方法です。
- 「楽しき日。」
- 「早う起きる。」
- 「恐ろしくなる。」
- 「少なからず。」
- 「をかし。」
答え:
- 「楽し」→「楽しくなる」→シク活用
- 「早し」→「早くなる」→ク活用(「早う」はウ音便)
- 「恐ろし」→「恐ろしくなる」→シク活用
- 「少なし」→「少なくなる」→ク活用
- 「をかし」→「をかしくなる」→シク活用
このように、繰り返し練習することで、見分けの精度を高めることができます。もし間違えても、どこで間違えたのかを確認し、もう一度見分け方を復習することが大切です。
なぜク活用とシク活用を見分ける必要があるのか

「なぜ、こんなに細かく形容詞の活用を見分ける必要があるのだろう?」と感じる方もいるかもしれません。しかし、ク活用とシク活用を正確に区別できることは、古文の学習において非常に大きな意味を持ちます。単に文法問題を解くためだけでなく、古文の世界を深く理解するために不可欠なスキルなのです。
正しい文法理解と読解力向上のために
ク活用とシク活用を正しく見分けることは、古文の文法を正確に理解するための基本です。形容詞の活用形が異なれば、それに続く助動詞や助詞の種類、さらには文全体の意味合いも変わってくることがあります。例えば、連用形「〜く」と「〜しく」のどちらであるかによって、後に続く語が限定される場合もあります。文法的な構造を正確に把握することで、文章の読解力は飛躍的に向上します。
曖張な理解のままでは、誤った解釈をしてしまう可能性が高まるでしょう。
入試や資格試験での重要性
大学入試や各種資格試験において、古典文法は重要な出題範囲の一つです。特に形容詞の活用は、その中でも頻出テーマとして知られています。ク活用とシク活用の見分け方を問う問題はもちろんのこと、活用の種類を理解していることを前提とした読解問題も多く出題されます。正確な知識がなければ、これらの問題で得点することは難しいでしょう。
試験で良い結果を出すためには、この見分け方をマスターすることが不可欠です。
よくある質問

ク活用とシク活用について学ぶ中で、多くの人が抱きやすい疑問をまとめました。これらの質問と回答を通して、さらに理解を深めていきましょう。
ク活用とシク活用は現代語にもあるの?
現代語の形容詞には、ク活用やシク活用といった分類はありません。現代語の形容詞は、基本的に一種類の活用しか持ちません。例えば「高い」は「高く」「高ければ」などと変化しますが、これは「高し」のク活用に由来するものです。古文のク活用やシク活用は、古典文法特有の概念です。
「〜し」の形はどちらの活用?
形容詞の終止形は、ク活用もシク活用もどちらも「〜し」で終わります。
そのため、終止形だけを見てク活用かシク活用かを判断することはできません。見分けるには、やはり動詞「なる」を付けて「〜くなる」か「〜しくなる」かで判断するのが確実です。
カリ活用とシカリ活用は必ず覚えるべき?
カリ活用とシカリ活用は、形容詞の補助活用であり、主に助動詞が接続する際に用いられます。
本活用と合わせて覚えることで、形容詞の活用全体を網羅的に理解できます。特に、助動詞との接続を問われる問題では、この知識が役立ちます。古文を深く学ぶのであれば、覚えておくことをおすすめします。
語幹と語尾の見分け方が難しい
語幹とは活用しても変化しない部分、語尾とは活用によって変化する部分です。
例えば、「高し」の場合、「高」が語幹で、「し」が語尾(終止形)です。「高く」であれば「高」が語幹、「く」が語尾(連用形)となります。慣れないうちは難しく感じるかもしれませんが、様々な形容詞の活用形を書き出してみて、変化しない部分と変化する部分を意識すると見分けやすくなります。
形容動詞の活用との違いは?
形容詞と形容動詞は、どちらも物事の性質や状態を表す言葉ですが、活用の仕方が異なります。形容詞の終止形が「〜し」であるのに対し、形容動詞の終止形は「〜なり」「〜たり」となります。
また、形容動詞にはナリ活用とタリ活用があり、形容詞のク活用・シク活用とは全く別の活用をします。
「なる」を付けて見分ける方法は形容詞に特有のものであり、形容動詞には適用できません。
品詞そのものの違いを理解することが、混同を避けるための第一歩です。
まとめ
- ク活用とシク活用は古典文法における形容詞の二つの活用形式です。
- 形容詞の終止形はどちらも「〜し」で終わります。
- 見分け方の最も確実なコツは、形容詞の後に「なる」を付けることです。
- 「〜くなる」となればク活用、「〜しくなる」となればシク活用です。
- 語幹の末尾で判断する方法もありますが、例外があるため注意が必要です。
- ク活用にはカリ活用、シク活用にはシカリ活用という補助活用があります。
- 補助活用は主に助動詞が接続する際に用いられる形です。
- 多くの例文に触れて実践的な見分け方トレーニングを積むことが大切です。
- ク活用とシク活用の理解は、古文の読解力向上に直結します。
- 大学入試や資格試験でも頻繁に出題される重要な文法事項です。
- 現代語にはク活用やシク活用といった分類は存在しません。
- 形容動詞の活用とは全く異なるため、混同しないよう注意が必要です。
- 語幹は変化しない部分、語尾は変化する部分を指します。
- 活用の全体像を把握することで、より深い理解が得られます。
- 繰り返し学習し、疑問点を解決しながら着実に知識を定着させましょう。
