突然の体の腫れやむくみに悩まされている方は、その原因が何なのか、そしてどのように対処すれば良いのか、不安な気持ちでいっぱいかもしれません。特に「遺伝性血管性浮腫」と「クインケ浮腫」という言葉を聞いたことがあるものの、その違いがよく分からず、ご自身の症状がどちらに当てはまるのか判断に迷う方も少なくないでしょう。
本記事では、これら二つの病気の症状、原因、診断、そして治療法について詳しく解説し、それぞれの決定的な違いを分かりやすくお伝えします。
遺伝性血管性浮腫とは?その特徴とメカニズム

遺伝性血管性浮腫(HAE)は、体のさまざまな部位に突然、腫れやむくみが繰り返し現れる稀な遺伝性の病気です。この病気は、免疫系の一部であるC1インヒビターというタンパク質の機能が低下したり、量が不足したりすることが主な原因となります。C1インヒビターは、体内で炎症を引き起こすブラジキニンという物質の過剰な産生を抑える働きをしています。
そのため、C1インヒビターの機能が低下すると、ブラジキニンが過剰に作られ、血管から水分が漏れ出して浮腫が生じるのです。
遺伝性血管性浮腫の主な症状と発作の引き金
遺伝性血管性浮腫の症状は、皮膚の深い部分や粘膜に現れる浮腫が特徴です。顔面(特にまぶた、唇、舌)、手足、外陰部などに腫れが見られますが、通常、かゆみやじんましんは伴いません。 腫れは24時間でピークに達し、2~5日間持続することが多いとされています。 また、消化管に浮腫が生じると、激しい腹痛、吐き気、嘔吐、下痢などの症状が現れることがあります。
最も危険なのは喉頭浮腫で、気道が閉塞して呼吸困難に陥り、命に関わる場合もあるため、緊急の対応が必要です。 発作の引き金となるものには、抜歯などの外科的処置、外傷、ストレス、疲労、寒さや暑さ、激しい運動、月経、特定の薬剤(エストロゲンを含む経口避妊薬など)が挙げられますが、誘因なく発作が起こることも少なくありません。
遺伝性血管性浮腫の原因とタイプ
遺伝性血管性浮腫の主な原因は、C1インヒビターの遺伝子変異による機能低下または欠損です。 この病気は常染色体優性遺伝形式をとることが多く、約85%の患者さんに血縁者にも同様の症状が見られますが、約25%は家族歴のない新生変異で発症することもあります。 遺伝性血管性浮腫は、その病態によって主に以下の3つのタイプに分類されます。
- I型HAE:C1インヒビターの量と活性がともに低下しているタイプで、HAE全体の約85%を占めます。
- II型HAE:C1インヒビターの量は正常または上昇しているものの、機能が低下しているタイプで、HAE全体の約15%を占めます。
- III型HAE(正常C1-INH遺伝性血管性浮腫):C1インヒビターの量も機能も正常ですが、他の遺伝子(血液凝固第XII因子、アンジオポエチンI、プラスミノーゲンなど)の異常が原因で発症するタイプです。 女性に多く、通常20歳以降に発症することが多いとされています。
遺伝性血管性浮腫の診断方法
遺伝性血管性浮腫の診断は、特徴的な症状と家族歴に加え、血液検査によって行われます。 特に重要なのは、血液中のC1インヒビターの活性と量、そして補体C4の濃度を測定することです。 I型HAEではC1インヒビターの活性と量が低下し、C4も低下します。 II型HAEではC1インヒビターの活性は低下するものの、量は正常または上昇し、C4は低下します。
家族歴がなく、30歳以降に症状が出現した場合は、後天性血管性浮腫との鑑別も必要です。 診断を確定するためには、これらの検査を繰り返し行うことが大切です。 浮腫が出現している時に検査を行う方が、より正確な診断につながることがあります。
遺伝性血管性浮腫の治療法と管理
遺伝性血管性浮腫を完全に治す治療法は現在のところありませんが、発作を抑えたり予防したりするための効果的な治療法が確立されています。 治療は大きく分けて、発作が起きた時の急性期治療と、発作を予防するための長期的な管理に分けられます。
- 急性期治療:発作時には、C1インヒビター製剤の補充やブラジキニンB2受容体拮抗薬の投与が行われます。 C1インヒビター製剤は、不足しているC1インヒビターを直接補充するもので、医療機関で静脈注射や点滴で投与されます。 ブラジキニンB2受容体拮抗薬は、ブラジキニンの作用を抑えることで浮腫の進行を食い止める薬で、自己注射が可能なタイプもあります。 喉頭浮腫など命に関わる発作の場合は、早期の治療が非常に重要です。
- 長期予防治療:発作の頻度が高い場合や、喉頭浮腫のリスクが高い場合には、発作を予防するための治療が行われます。これには、C1インヒビター製剤の定期的な皮下注射や、血漿カリクレイン阻害薬の投与などがあります。 また、外科手術や歯科治療など、発作が誘発される可能性のある処置の前には、一時的にC1インヒビター製剤を補充する短期予防も行われます。
患者さん自身がHAEであることを周囲に伝えられるよう、緊急連絡カードなどを常備することも大切です。
クインケ浮腫(血管性浮腫)とは?一般的な浮腫との区別

クインケ浮腫は「血管性浮腫」と同義の言葉であり、皮膚の深い部分や粘膜が突然腫れる症状の総称です。 一般的なむくみ(浮腫)が重力によって足などに現れやすいのに対し、クインケ浮腫はまぶた、唇、舌、顔面、手足、外陰部など、体のさまざまな場所に突発的に生じます。 蕁麻疹と似ていますが、蕁麻疹が皮膚の浅い部分にできる境界がはっきりした膨疹で強いかゆみを伴うのに対し、クインケ浮腫は皮膚の深い部分に生じるため、境界が不明瞭で、かゆみよりも灼熱感を伴うことが多いという違いがあります。
クインケ浮腫の主な症状と種類
クインケ浮腫の主な症状は、突然現れる腫れやむくみです。 腫れは数時間で完成し、通常2~5日間で自然に消えるのが特徴です。 かゆみを伴わないことも多いですが、灼熱感や軽い痛みを伴うことがあります。 腫れは左右非対称に現れることがあり、指で押しても跡が残らないことが多いです。 喉の粘膜が腫れると、声が出しにくくなったり、息苦しさを感じたりすることがあり、重症化すると呼吸困難に陥る危険性があります。
消化管に浮腫が生じると、腹痛、吐き気、嘔吐、下痢などの症状が見られることもあります。 クインケ浮腫は、その原因によっていくつかの種類に分類されます。
- アレルギー性血管性浮腫:特定の食物、薬物、虫刺されなどに対するアレルギー反応によって引き起こされます。 じんましんを伴うことが多いです。
- 薬剤誘発性血管性浮腫:アスピリンなどの非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)、一部の抗生物質、経口避妊薬などが原因となることがあります。 特にACE阻害薬によるものは、喉頭浮腫のリスクが高いとされています。
- 特発性血管性浮腫:原因が特定できない場合に診断されます。 ストレスや疲労が発症要因となることが多いと言われています。
- 物理的刺激による血管性浮腫:寒冷、日光、振動などの特定の物理刺激によって誘発されることがあります。
- 後天性血管性浮腫:リンパ腫などの悪性腫瘍や自己免疫疾患に伴ってC1インヒビターが欠損または機能不全を起こすことで発症します。 通常40歳以降に発症し、家族歴がないのが特徴です。
クインケ浮腫の原因と関連疾患
クインケ浮腫の原因は多岐にわたりますが、大きく分けて肥満細胞から放出されるヒスタミンが関与するものと、ブラジキニンが関与するもの、そして原因不明のものに分類されます。 アレルギー反応によるものはヒスタミンが主な原因物質であり、じんましんを伴うことが多いです。 一方、ACE阻害薬によるものや、遺伝性・後天性血管性浮腫はブラジキニンが過剰に産生されることで浮腫が起こります。
特定の薬の服用、食物、虫刺され、ストレス、疲労などが誘因となることがあります。 また、後天性血管性浮腫のように、リンパ増殖性疾患(悪性リンパ腫、慢性リンパ球性白血病、M蛋白血症)や全身性エリテマトーデスなどの自己免疫疾患が関連している場合もあります。 原因が特定できない特発性血管性浮腫も半数近くを占めると言われています。
クインケ浮腫の診断方法
クインケ浮腫の診断は、症状の経過や誘因の有無、服用している薬の確認など、詳細な問診が重要です。 アレルギーが疑われる場合は、アレルギー検査(血清総IgE値、アレルゲン特異的IgE値など)が行われることがあります。 薬剤誘発性が疑われる場合は、原因薬剤の中止を検討します。 また、遺伝性血管性浮腫や後天性血管性浮腫との鑑別が必要な場合には、C1インヒビターの活性や量、C4値などの補体検査が行われます。
特に、じんましんを伴わない血管性浮腫の場合や、家族歴がある場合は、これらの検査が重要になります。 診断が難しい場合は、専門医への相談が大切です。
クインケ浮腫の治療法と緊急時の対応
クインケ浮腫の治療は、その原因によって異なります。 アレルギー性や特発性の血管性浮腫では、主に抗ヒスタミン薬の内服が中心となります。 抗ヒスタミン薬だけでは効果が不十分な場合、ステロイドの内服や抗アレルギー薬の追加、トラネキサム酸などが用いられることもあります。 薬剤誘発性の場合には、原因となっている薬剤の服用を中止することが最も重要です。
遺伝性血管性浮腫や後天性血管性浮腫の場合は、前述の通りC1インヒビター製剤やブラジキニンB2受容体拮抗薬が用いられます。
緊急時の対応として、喉頭浮腫による呼吸困難は命に関わるため、直ちに医療機関を受診し、気管内挿管や気管切開などの緊急治療が必要になることがあります。 血管性浮腫の発作が起こった際に、息苦しさや嚥下困難などの症状がある場合は、迷わず救急車を呼ぶなどして緊急対応を求めることが大切です。
遺伝性血管性浮腫とクインケ浮腫の決定的な違いを比較

遺伝性血管性浮腫とクインケ浮腫は、どちらも体のさまざまな部位に浮腫が生じるという共通点がありますが、その根本的な原因、発症メカニズム、症状の特徴、そして治療法において決定的な違いがあります。これらの違いを理解することは、適切な診断と治療を受ける上で非常に重要です。
発症メカニズムと原因物質の違い
遺伝性血管性浮腫(HAE)は、主にC1インヒビターの欠損または機能不全によって、ブラジキニンという物質が過剰に産生されることで浮腫が引き起こされます。 ブラジキニンは血管透過性を亢進させ、血管から水分が漏れ出すことで腫れが生じます。 一方、クインケ浮腫(血管性浮腫)の多くは、肥満細胞から放出されるヒスタミンが原因で起こるアレルギー性のものや、特定の薬剤によって誘発されるものなど、原因が多岐にわたります。
ヒスタミンが関与する浮腫は、じんましんを伴うことが多いのが特徴です。
症状の特徴と持続期間の相違点
HAEによる浮腫は、かゆみやじんましんを伴わないことが大きな特徴です。 腫れは境界が不明瞭で、圧痕を残さず、通常2~5日間持続します。 消化管の浮腫による激しい腹痛も頻繁に見られます。 これに対し、一般的なクインケ浮腫は、かゆみや灼熱感を伴うことがあり、じんましんを併発することも少なくありません。 腫れの持続期間はHAEと同様に数日ですが、アレルギー性の場合は比較的早く症状が引くこともあります。
治療アプローチと緊急時の対応の違い
HAEの治療は、ブラジキニンの作用を直接抑えるC1インヒビター製剤やブラジキニンB2受容体拮抗薬が中心となります。 これらの薬剤はHAEに特異的であり、一般的なアレルギー治療薬である抗ヒスタミン薬やステロイドは効果がありません。 緊急時の喉頭浮腫に対しても、HAE特異的な治療薬の早期投与が不可欠です。
一方、アレルギー性や特発性のクインケ浮腫では、抗ヒスタミン薬やステロイドが治療の第一選択となります。 薬剤誘発性の場合は、原因薬剤の中止が最も重要です。 どちらの病態でも喉頭浮腫は命に関わるため、呼吸困難が生じた場合は直ちに緊急医療を受ける必要があります。
遺伝の有無と家族歴の重要性
遺伝性血管性浮腫は、その名の通り遺伝性の病気であり、約75%の患者さんに家族歴が見られます。 家族に同様の症状を持つ人がいるかどうかは、HAEを診断する上で非常に重要な情報となります。 後天性血管性浮腫は遺伝性ではありませんが、C1インヒビターの異常が原因となる点でHAEと共通しています。 これに対し、一般的なクインケ浮腫の多くは遺伝性ではなく、アレルギーや薬剤、ストレスなど後天的な要因によって発症します。
よくある質問

- 遺伝性血管性浮腫は遺伝する病気ですか?
- クインケ浮腫はアレルギーと関係がありますか?
- どちらの浮腫も命に関わることはありますか?
- 浮腫が起きたら、まずどうすればいいですか?
- 遺伝性血管性浮腫と後天性血管性浮腫は同じものですか?
遺伝性血管性浮腫は遺伝する病気ですか?
はい、遺伝性血管性浮腫(HAE)はその名の通り遺伝性の病気です。多くの場合、常染色体優性遺伝形式をとり、患者さんの約75%に血縁者にも同様の症状を持つ方がいらっしゃいます。 しかし、約25%は家族歴のない新生変異で発症することもあります。 家族に原因不明の腫れや腹痛、喉の腫れを繰り返す方がいる場合は、HAEの可能性を考慮し、専門医に相談することが大切です。
クインケ浮腫はアレルギーと関係がありますか?
クインケ浮腫(血管性浮腫)の中には、アレルギー反応によって引き起こされるタイプがあります。 特定の食物、薬物、虫刺されなどがアレルゲンとなり、肥満細胞からヒスタミンが放出されることで浮腫が生じます。 この場合、じんましんやかゆみを伴うことが多いです。 しかし、クインケ浮腫の全てがアレルギー性というわけではなく、薬剤性、特発性、そして遺伝性血管性浮腫のようにブラジキニンが関与するものもあります。
どちらの浮腫も命に関わることはありますか?
はい、遺伝性血管性浮腫もクインケ浮腫も、どちらも命に関わる可能性があります。特に喉頭(のど)に浮腫が生じた場合、気道が閉塞して呼吸困難に陥り、窒息の危険があるため、緊急の対応が必要です。 消化管の浮腫による激しい腹痛も、重症化すると緊急手術が必要になるケースもあります。 症状が喉や呼吸器に現れた場合は、迷わず医療機関を受診し、適切な治療を受けることが重要です。
浮腫が起きたら、まずどうすればいいですか?
浮腫が起きたら、まずは落ち着いて症状を観察することが大切です。特に、息苦しさ、喉の詰まり感、声の変化など、呼吸器系の症状がある場合は、すぐに救急車を呼ぶか、緊急で医療機関を受診してください。 かゆみやじんましんを伴わない、または激しい腹痛がある場合は、遺伝性血管性浮腫の可能性も考慮し、その旨を医師に伝えるようにしましょう。
普段から緊急連絡カードなどを携帯し、ご自身の病状や服用中の薬について周囲に伝えられるように準備しておくことも有効です。
遺伝性血管性浮腫と後天性血管性浮腫は同じものですか?
遺伝性血管性浮腫(HAE)と後天性血管性浮腫(AAE)は、どちらもC1インヒビターの欠損または機能不全によって引き起こされるブラジキニン介在性の血管性浮腫であり、症状も似ています。 しかし、両者には明確な違いがあります。HAEは遺伝子の変異が原因で、通常10代から症状が現れ、家族歴があることが多いです。
一方、AAEは遺伝性ではなく、リンパ腫などの悪性腫瘍や自己免疫疾患に伴ってC1インヒビターが後天的に欠損または機能不全を起こすことで発症し、通常40歳以降に発症し家族歴がないのが特徴です。 診断の際には、C1qという補体成分の値も鑑別に役立ちます。
まとめ
- 遺伝性血管性浮腫(HAE)はC1インヒビターの異常による遺伝性の病気です。
- クインケ浮腫は血管性浮腫の総称で、アレルギー性、薬剤性、特発性など多様な原因があります。
- HAEの浮腫はかゆみやじんましんを伴わず、ブラジキニンが原因です。
- クインケ浮腫はヒスタミンが原因の場合、かゆみやじんましんを伴うことがあります。
- HAEの腫れは2~5日間持続し、消化管症状も頻繁に見られます。
- 喉頭浮腫はどちらの病気でも命に関わるため、緊急対応が必要です。
- HAEの診断にはC1インヒビターの活性・量、C4値の血液検査が重要です。
- クインケ浮腫の診断は問診、アレルギー検査、薬剤歴の確認などで行われます。
- HAEの治療はC1インヒビター製剤やブラジキニンB2受容体拮抗薬が中心です。
- クインケ浮腫の治療は抗ヒスタミン薬やステロイド、原因薬剤の中止が基本です。
- HAEは家族歴があることが多いですが、新生変異で発症することもあります。
- 後天性血管性浮腫は遺伝性ではなく、他の病気に伴って発症します。
- 浮腫が喉に現れたら、すぐに医療機関を受診してください。
- 緊急連絡カードの携帯は、いざという時の助けとなります。
- ご自身の症状に合った適切な診断と治療を受けることが大切です。
