頭痛や生理痛、関節の痛みなど、日常生活でよく使われる解熱鎮痛剤「ロキソニン」。その効果の高さから多くの方に選ばれていますが、「腎臓に負担がかかる」という話を聞いて不安に感じている方もいるのではないでしょうか。特に、健康診断でクレアチニン値が高いと指摘されたり、腎機能の低下を心配している方にとって、ロキソニンの服用は慎重にならざるを得ません。
本記事では、ロキソニンが腎臓に与える影響や、腎機能の指標となるクレアチニンとの関係について詳しく解説します。腎臓への負担を最小限に抑えながら、安全にロキソニンを使用するためのコツや、腎臓に優しい代替薬についてもご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
ロキソニンが腎臓に与える影響とは？
ロキソニンは、非ステロイド性抗炎症薬（NSAIDs）と呼ばれる種類の薬です。このNSAIDsが、なぜ腎臓に影響を与えるのか、その作用機序と腎臓の働きへの影響を理解することが大切です。
ロキソニン（NSAIDs）の作用機序
ロキソニンは、体内で痛みや炎症、発熱を引き起こす「プロスタグランジン」という物質の生成を抑えることで、その効果を発揮します。プロスタグランジンは、炎症部位で多く作られることで痛みなどを引き起こしますが、実は体内で他にも重要な働きをしています。
このプロスタグランジンの生成を抑えることが、ロキソニンの主な作用です。しかし、この作用が腎臓に思わぬ影響を与えることがあります。
腎臓の働きとNSAIDsによる影響
腎臓は、体内の老廃物をろ過して尿として排泄する重要な臓器です。また、血圧の調整や赤血球の製造など、生命維持に欠かせない多くの役割を担っています。
腎臓の血流は、プロスタグランジンによって適切に保たれています。ロキソニンなどのNSAIDsがプロスタグランジンの生成を抑制すると、腎臓への血流が減少してしまうことがあります。
その結果、腎臓のろ過機能が一時的に低下し、腎臓に負担がかかる可能性があるのです。健康な方であれば一時的な使用で問題ないことが多いものの、腎機能がすでに低下している方や、特定の持病がある方は特に注意が必要です。
クレアチニンと腎機能の指標
腎機能の状態を把握するために、血液検査で「クレアチニン」や「eGFR」といった数値が用いられます。これらの数値が何を意味するのかを知っておきましょう。
クレアチニンとは？
クレアチニンは、筋肉を動かすエネルギー源である「クレアチン」が代謝された後にできる老廃物です。この老廃物は血液中を流れ、主に腎臓でろ過されて尿として体外に排出されます。
腎臓の機能が正常であれば、クレアチニンは効率よく排泄されるため、血液中の濃度は一定に保たれます。しかし、腎機能が低下すると、クレアチニンが十分に排泄されずに血液中に蓄積され、その濃度が高くなります。
そのため、血液中のクレアチニン濃度は、腎臓のろ過機能を示す重要な指標として用いられるのです。一般的に、男性は女性よりも筋肉量が多いため、クレアチニン値も高くなる傾向があります。
eGFR（推算糸球体濾過量）の重要性
クレアチニン値だけでも腎機能のある程度の目安は分かりますが、より正確に腎機能を評価するために「eGFR（estimated Glomerular Filtration Rate：推算糸球体濾過量）」が広く用いられています。
eGFRは、腎臓の糸球体が1分間にどれくらいの血液をろ過できるかを示す数値です。クレアチニン値と年齢、性別を用いて計算され、腎機能そのものを100点満点で評価したものと考えると分かりやすいでしょう。
eGFRが60mL/分/1.73㎡未満の状態が3ヶ月以上続くと、慢性腎臓病（CKD）と診断されます。eGFRが低いほど腎機能の低下が進んでいることを意味し、ロキソニンなどのNSAIDsの服用にはより一層の注意が必要です。
腎機能が低下している場合のロキソニン服用リスク
腎機能が低下している方や、クレアチニン値が高いと指摘されている方がロキソニンを服用する際には、いくつかのリスクを理解しておく必要があります。
高クレアチニン値とロキソニン
血液中のクレアチニン値が高いということは、すでに腎機能が低下している可能性が高いことを示しています。このような状態でロキソニンを服用すると、腎臓への血流がさらに減少し、腎機能が急激に悪化する「急性腎障害（AKI）」を引き起こすリスクが高まります。
特に、脱水状態にある場合や、高血圧、糖尿病、心不全などの持病がある方は、腎臓への負担が大きくなりやすいので注意が必要です。
ロキソニンの添付文書にも「重篤な腎機能障害のある患者には投与しないこと」と明記されており、軽度な腎機能障害の場合でも慎重な投与が求められます。
腎臓病患者がロキソニンを服用する際の注意点
慢性腎臓病（CKD）の患者さんがロキソニンを服用すると、腎機能の悪化を早める可能性があります。
NSAIDsは薬剤性腎障害の原因薬剤の第一位とも言われており、腎臓病の患者さんには原則として避けられる薬です。
もし、腎機能に不安がある方が痛み止めを必要とする場合は、必ず医師や薬剤師に相談し、腎機能の状態を伝えた上で、適切な薬を選択してもらうことが重要です。自己判断での服用は、腎機能をさらに悪化させる危険性があるため避けるべきです。
ロキソニン以外の痛み止めと腎臓への配慮
腎機能に不安がある場合や、クレアチニン値が高いと指摘されている場合でも、痛みを我慢する必要はありません。腎臓への負担が少ない痛み止めや、医師・薬剤師との相談を通じて、適切な対処法を見つけることができます。
腎臓に優しい痛み止めの選択肢
ロキソニンなどのNSAIDsが腎臓に負担をかける可能性がある一方で、比較的腎臓に優しいとされる痛み止めも存在します。その代表的なものが「アセトアミノフェン（商品名：カロナールなど）」です。
アセトアミノフェンは、NSAIDsとは異なる作用機序で痛みを抑えるため、腎臓への影響が少ないとされています。
ただし、アセトアミノフェンも過剰摂取すると肝臓に負担をかける可能性があるため、用法・用量を守ることが大切です。
また、湿布や塗り薬などの外用薬も、内服薬に比べて全身への影響は少ないとされていますが、全くリスクがないわけではありません。皮膚から吸収されて体内に移行するため、腎機能が著しく低下している場合は注意が必要です。
医師や薬剤師との相談の重要性
腎機能に不安がある方が痛み止めを選ぶ際には、必ず医師や薬剤師に相談することが最も重要です。
自身の腎機能の状態（クレアチニン値やeGFRなど）、持病、服用中の他の薬などを正確に伝えることで、医師や薬剤師は最適な痛み止めを提案してくれます。
自己判断で市販薬を使い続けたり、服用量を増やしたりすることは、腎機能をさらに悪化させる危険性があるため、絶対に避けてください。
ロキソニンを安全に使うためのコツ
腎機能に問題がない方でも、ロキソニンを安全に使うためにはいくつかのコツがあります。適切な服用方法を守り、体への負担を減らすように心がけましょう。
服用量と期間の厳守
ロキソニンは、その効果が高い分、用法・用量を守ることが非常に大切です。添付文書に記載されている1回量や1日最大量を守り、漫然と長期間服用することは避けましょう。
特に、市販薬のロキソニンSなどを使用する場合でも、自己判断で量を増やしたり、痛みが引かないからといって連用したりしないように注意が必要です。
痛みが続く場合は、薬の服用を続ける前に、必ず医師の診察を受けて原因を特定し、適切な治療方針を相談してください。
水分補給の重要性
ロキソニンなどのNSAIDsを服用する際には、十分な水分補給を心がけることも大切です。
脱水状態になると、腎臓への血流が減少し、ロキソニンによる腎臓への負担がさらに大きくなる可能性があります。
特に、発熱時や下痢・嘔吐などで体内の水分が失われやすい状況では、意識的に水分を摂るようにしましょう。
ただし、心不全などで水分制限がある方は、医師の指示に従ってください。
よくある質問
ロキソニンと腎機能、クレアチニンに関するよくある疑問にお答えします。
- ロキソニンは腎臓に悪いと聞きましたが本当ですか？
- クレアチニンが高い場合、ロキソニンは絶対に使えませんか？
- 腎臓病でも使える痛み止めはありますか？
- ロキソニンを飲んでから腎臓が悪くなった気がします。どうすればいいですか？
- eGFRが低いとロキソニンは避けるべきですか？
ロキソニンは腎臓に悪いと聞きましたが本当ですか？
はい、ロキソニンを含む非ステロイド性抗炎症薬（NSAIDs）は、腎臓に負担をかける可能性があります。
これは、腎臓の血流を保つために必要なプロスタグランジンという物質の働きを抑えてしまうためです。その結果、腎臓の血流が減少し、腎機能が低下することがあります。
クレアチニンが高い場合、ロキソニンは絶対に使えませんか？
クレアチニンが高い場合は、すでに腎機能が低下している可能性が高いため、ロキソニンの服用は慎重に行う必要があります。
重篤な腎機能障害がある場合は禁忌とされており、軽度な場合でも医師や薬剤師に相談し、腎機能の状態を考慮した上で、服用を検討することが大切です。
腎臓に比較的優しいとされるアセトアミノフェンなどの代替薬が選択されることもあります。
腎臓病でも使える痛み止めはありますか？
腎臓病の方でも使える痛み止めとして、アセトアミノフェン（商品名：カロナールなど）が一般的に推奨されます。
アセトアミノフェンは、ロキソニンとは異なる作用機序で痛みを抑え、腎臓への影響が少ないとされています。
ただし、肝臓に負担をかける可能性もあるため、必ず医師や薬剤師の指示に従って服用してください。
ロキソニンを飲んでから腎臓が悪くなった気がします。どうすればいいですか？
ロキソニン服用後に足のむくみ、倦怠感、尿量の減少など、腎機能低下を疑う症状が現れた場合は、すぐに服用を中止し、医療機関を受診してください。
医師にロキソニンを服用していたことを伝え、腎機能の検査を受けることが重要です。
eGFRが低いとロキソニンは避けるべきですか？
eGFRが低いということは、腎機能が低下していることを意味します。eGFRが60mL/分/1.73㎡未満の場合、慢性腎臓病と診断されるため、ロキソニンなどのNSAIDsの服用は避けるか、非常に慎重に行うべきです。
特にeGFRがさらに低い場合は、腎機能が急激に悪化するリスクが高まるため、必ず医師に相談し、指示に従ってください。
まとめ
- ロキソニンは非ステロイド性抗炎症薬（NSAIDs）の一種です。
- ロキソニンはプロスタグランジンを抑制し、痛みや炎症を和らげます。
- プロスタグランジンは腎臓の血流維持にも関わります。
- ロキソニン服用で腎臓への血流が減少し、腎機能が低下する可能性があります。
- クレアチニンは筋肉の老廃物で、腎機能の指標です。
- クレアチニン値が高いと腎機能低下が疑われます。
- eGFRは腎臓のろ過能力を示すより正確な指標です。
- eGFRが低い場合、ロキソニン服用は腎機能悪化のリスクを高めます。
- 腎機能障害のある患者さんにはロキソニンは禁忌または慎重投与です。
- 腎臓に優しい痛み止めとしてアセトアミノフェンがあります。
- 痛み止めを選ぶ際は必ず医師や薬剤師に相談しましょう。
- ロキソニンは用法・用量を厳守し、長期間の服用は避けましょう。
- ロキソニン服用時は十分な水分補給が大切です。
- 腎機能低下の症状があればすぐに医療機関を受診してください。