健康診断で血糖値の異常を指摘されたり、妊娠中に糖代謝の検査が必要になったりして、「75gOGTT」という言葉を耳にしたことはありませんか?この検査は、私たちの体がブドウ糖をどのように処理しているかを詳しく調べるための大切な検査です。しかし、その具体的な内容や、検査結果の「基準値」が何を意味するのか、不安に感じる方も少なくないでしょう。
本記事では、75gOGTT(経口ブドウ糖負荷試験)がどのような検査なのか、検査前後の準備や当日の進め方、そして最も気になる糖尿病や妊娠糖尿病の診断基準となる数値について、分かりやすく解説します。ご自身の検査結果を正しく理解し、今後の健康管理に役立てるための情報をお届けしますので、ぜひ最後までお読みください。
75gOGTT(経口ブドウ糖負荷試験)とは?その目的と重要性

75gOGTT、正式名称「75g経口ブドウ糖負荷試験」は、糖尿病やその予備群、あるいは妊娠糖尿病を診断するために行われる、非常に重要な検査です。この検査は、単に現在の血糖値を測るだけでなく、体がブドウ糖をどれだけうまく処理できるか、その能力を詳細に評価する目的があります。特に、通常の健康診断では見つけにくい初期の糖代謝異常を発見する上で、欠かせない役割を担っています。
75gOGTTがどのような検査か
75gOGTTは、一定量のブドウ糖(75g)を溶かした甘い飲み物を飲んだ後、時間の経過とともに血糖値がどのように変化するかを測定する検査です。具体的には、まず空腹時の血糖値を採血で測定し、その後ブドウ糖液を摂取します。そして、飲んでから30分後、1時間後、2時間後といった特定のタイミングで再度採血を行い、血糖値の推移を詳しく調べます。
この一連の採血によって、体がブドウ糖を吸収し、インスリンを分泌して血糖値を下げる一連の代謝プロセスを評価することが可能です。
検査の目的と重要性
この検査の主な目的は、糖尿病の早期発見と正確な診断です。通常の空腹時血糖値やHbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)だけでは捉えきれない「隠れた糖尿病」や「糖尿病予備群(耐糖能異常)」を見つけることができます。特に、食後の血糖値が一時的に高くなる「食後高血糖」は、将来的な糖尿病発症や心血管疾患のリスクを高めることが知られており、75gOGTTはこの食後高血糖の状態を評価するのに優れています。
また、妊娠中の女性にとっては、母体と胎児の健康を守るために、妊娠糖尿病の早期診断に不可欠な検査とされています。 早期に異常を発見することで、適切な生活習慣の改善や治療を始めることができ、合併症のリスクを減らすことにつながります。
75gOGTTの検査の流れと準備

75gOGTTは、正確な結果を得るために、検査前からの準備と当日の進め方が非常に重要です。検査を受ける方は、事前に医療機関から説明される指示をしっかりと守る必要があります。ここでは、検査前日までの準備から、検査当日の具体的な進め方、そして検査中に注意すべき点について詳しく解説します。
検査前日までの準備
75gOGTTの検査前には、いくつかの大切な準備があります。まず、検査の数日前からは、普段通りの食事を心がけ、極端な糖質制限などは避けるようにしましょう。これは、検査結果が普段の食生活を反映したものとなるようにするためです。 検査前日の夜は、通常、21時以降は水以外の摂取を控える「絶食」が指示されます。
絶食時間は10時間以上、ただし14時間以内が望ましいとされています。 また、検査前日は激しい運動や飲酒も控えるようにしましょう。これらの準備を怠ると、検査結果に影響が出てしまい、正確な診断が難しくなる可能性があります。
検査当日の具体的な進め方
検査当日は、まず早朝に医療機関へ来院します。到着後、最初の採血が行われます。これは「空腹時血糖値」を測定するためです。 採血が終わったら、75gのブドウ糖が溶かされた甘い液体(トレーランGなど)を飲みます。このブドウ糖液は、通常2~5分以内に飲み終えるように指示されます。 飲み始めの時間を0分として、その後、30分後、1時間後、2時間後に再度採血が行われます。
採血の回数は医療機関によって異なる場合もありますが、一般的にはこの3回が基本です。検査全体で2時間から3時間程度の時間がかかります。
検査中の注意点
75gOGTTの検査中は、正確な血糖値の変動を測定するために、いくつかの注意点があります。まず、ブドウ糖液を飲んだ後は、検査が終わるまでの間、水以外の飲食は一切禁止です。 また、喫煙や激しい運動も血糖値に影響を与えるため、控えるように指示されます。 検査中は、できるだけ安静にして過ごすことが大切です。
読書をしたり、静かに座って待ったりするなど、リラックスして過ごしましょう。これらの注意点を守ることで、体のブドウ糖処理能力を正確に評価することが可能となり、信頼性の高い検査結果が得られます。
75gOGTTの基準値と診断基準

75gOGTTの検査結果は、測定された血糖値に基づいて、正常型、境界型(糖尿病予備群)、糖尿病型のいずれかに判定されます。また、妊娠中の場合は「妊娠糖尿病」という独自の診断基準が適用されます。これらの基準値を理解することは、ご自身の健康状態を把握する上で非常に重要です。
一般的な糖尿病の診断基準
日本糖尿病学会の診断基準によると、75gOGTTの結果は以下の数値で判定されます。これらの数値は、静脈血漿値に基づいています。
- 正常型:空腹時血糖値が100mg/dL未満、かつブドウ糖負荷2時間後の血糖値が140mg/dL未満の場合です。
- 糖尿病型:空腹時血糖値が126mg/dL以上、またはブドウ糖負荷2時間後の血糖値が200mg/dL以上の場合です。
- 境界型(耐糖能異常):正常型にも糖尿病型にも当てはまらない場合を指します。具体的には、空腹時血糖値が100~125mg/dL、またはブドウ糖負荷2時間後の血糖値が140~199mg/dLの範囲です。 この境界型は、将来的に糖尿病へ移行するリスクが高い状態であり、生活習慣の改善が強く求められます。
なお、空腹時血糖値が100mg/dL以上109mg/dL未満は「正常高値」とされ、糖尿病への移行リスクが高いため、経過観察が望ましいとされています。 また、75gOGTTの1時間値が180mg/dL以上の場合も、正常型であっても糖尿病型への移行リスクが高いとされており、注意が必要です。
妊娠糖尿病の診断基準
妊娠中の女性に適用される妊娠糖尿病の診断基準は、一般的な糖尿病の基準よりも厳しく設定されています。これは、妊娠糖尿病が母体だけでなく、胎児にも様々な影響を及ぼす可能性があるためです。 日本産科婦人科学会および日本糖尿病・妊娠学会の基準では、75gOGTTにおいて以下のいずれか1点でも基準値を超えた場合に妊娠糖尿病と診断されます。
- 空腹時血糖値:92mg/dL以上
- ブドウ糖負荷1時間後の血糖値:180mg/dL以上
- ブドウ糖負荷2時間後の血糖値:153mg/dL以上
これらの基準値は、妊娠中の生理的な変化を考慮して設定されており、非妊娠時の糖尿病診断基準とは異なる点に注意が必要です。 妊娠糖尿病と診断された場合は、専門医の指導のもと、適切な食事療法や運動療法、必要に応じてインスリン療法を行うことで、血糖値を良好にコントロールすることが大切です。
正常型・境界型・糖尿病型の判定
75gOGTTの結果によって、ご自身の糖代謝の状態が「正常型」「境界型」「糖尿病型」のいずれに該当するかが判定されます。正常型であれば、現時点での糖代謝に問題はないと判断されますが、生活習慣の維持が大切です。境界型と判定された場合は、糖尿病予備群であり、生活習慣の改善が糖尿病への進行を防ぐための重要な時期となります。
糖尿病型と診断された場合は、速やかに専門医の診察を受け、治療を開始することが必要です。これらの判定は、将来の健康リスクを予測し、適切な対策を講じるための大切な情報源となります。
75gOGTTが必要となるケース

75gOGTTは、特定の状況下で糖尿病やその予備群、あるいは妊娠糖尿病の診断を確定するために推奨される検査です。誰もが受ける検査ではありませんが、以下のようなケースに当てはまる場合は、医師からこの検査を勧められることがあります。ご自身の状況と照らし合わせ、必要性を理解しておくことが大切です。
健康診断で異常を指摘された場合
一般的な健康診断で、空腹時血糖値やHbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)の数値に異常が認められた場合、75gOGTTが推奨されることがあります。例えば、空腹時血糖値が100mg/dL~125mg/dLの範囲(正常高値や境界型に該当)や、HbA1cが6.0%~6.4%の範囲で、糖尿病の可能性が否定できない場合に、より詳細な糖代謝の状態を調べるためにこの検査が行われます。
これらの数値は、糖尿病予備群の可能性を示唆しており、75gOGTTによって食後の血糖変動を含めた総合的な評価を行うことで、早期の診断と介入が可能になります。
妊娠中の糖代謝異常が疑われる場合
妊娠中の女性は、胎盤から分泌されるホルモンの影響でインスリンが効きにくくなり、血糖値が上がりやすくなることがあります。そのため、妊娠初期の随時血糖検査で異常が見られた場合や、妊娠中期に行われるグルコースチャレンジテストで基準値を超えた場合に、妊娠糖尿病の確定診断のために75gOGTTが実施されます。 また、肥満、糖尿病の家族歴、巨大児出産歴など、妊娠糖尿病になりやすいリスク因子を持つ妊婦さんに対しても、早期から75gOGTTが検討されることがあります。
妊娠糖尿病は、母体と胎児の双方に影響を及ぼす可能性があるため、早期発見と適切な管理が非常に重要です。
糖尿病のリスクが高い方
健康診断の数値に明らかな異常がなくても、糖尿病の発症リスクが高いと判断される方には、75gOGTTが勧められることがあります。具体的には、高血圧、脂質異常症、肥満(BMI25以上)、糖尿病の家族歴がある方などが該当します。 これらのリスク因子を持つ方は、将来的に糖尿病を発症する可能性が高いため、75gOGTTで現在の耐糖能(血糖値を正常に保つ能力)を詳しく評価し、予防的な対策を講じることが大切です。
早期に自身の糖代謝の状態を把握することで、生活習慣の改善や定期的な経過観察を通じて、糖尿病の発症を遅らせたり、防いだりする機会を得られます。
75gOGTTに関するよくある質問

75gOGTTについて、多くの方が抱く疑問や不安を解消するために、よくある質問とその回答をまとめました。検査を受ける前や結果を受け取った後に、ぜひ参考にしてください。
- 75gOGTTはなぜ75gのブドウ糖を使うのですか?
- 75gOGTTを受けられない場合はありますか?
- 検査結果が境界型だった場合、どうすれば良いですか?
- 妊娠糖尿病と診断されたら、出産後はどうなりますか?
- 75gOGTTの検査費用はどのくらいですか?
75gOGTTはなぜ75gのブドウ糖を使うのですか?
75gOGTTで75gのブドウ糖を使用するのは、世界保健機関(WHO)の勧告により、この量が世界的に広く普及しているためです。 この75gという量は、一般的な食事に含まれる糖質の量に近く、体がブドウ糖を処理する能力を適切に評価できるとされています。また、この量を用いることで、糖尿病の診断基準が国際的に統一され、異なる地域や医療機関での検査結果を比較しやすくなるという利点もあります。
75gOGTTを受けられない場合はありますか?
はい、75gOGTTを受けられないケースがいくつかあります。例えば、すでに空腹時血糖値が126mg/dL以上、随時血糖値が200mg/dL以上、またはHbA1cが6.5%以上など、他の検査で明らかに糖尿病と診断されている場合は、この検査は不要とされます。 また、著しい高血糖がある状態で75gOGTTを行うと、急激な血糖値の上昇やケトーシス(体内でケトン体が増える状態)の悪化を招き、危険な場合があるため実施されません。
その他、上部消化管造影X線検査や内視鏡検査の直後など、消化管の動きに影響が出る可能性のある場合も、検査を避けるべきとされています。
検査結果が境界型だった場合、どうすれば良いですか?
検査結果が境界型だった場合、それは「糖尿病予備群」の状態であり、将来的に糖尿病へ移行するリスクが高いことを意味します。この段階での対策が非常に重要です。具体的には、食生活の見直し(バランスの取れた食事、過剰な糖質摂取の制限)、適度な運動の習慣化、体重管理(特に肥満の場合)などが推奨されます。 かかりつけ医や管理栄養士と相談し、個々に合った生活習慣の改善計画を立て、定期的に血糖値の経過を観察することが大切です。
この時期に適切な対策を講じることで、糖尿病の発症を遅らせたり、防いだりすることが期待できます。
妊娠糖尿病と診断されたら、出産後はどうなりますか?
妊娠糖尿病と診断された場合、出産後は血糖値が正常に戻ることが多いですが、将来的に2型糖尿病を発症するリスクが高くなることが知られています。 そのため、出産後も定期的な血糖値のチェックや健康管理が重要です。通常、産後6~12週間後に再度75gOGTTなどの検査を行い、糖代謝の状態を再評価します。この再評価で異常がなくても、数年おきに検査を受けることが推奨されます。
また、健康的な食生活や運動習慣を継続し、体重管理に努めることが、将来の糖尿病発症予防につながります。
75gOGTTの検査費用はどのくらいですか?
75gOGTTの検査費用は、医療機関や保険診療の適用状況によって異なります。一般的に、医師が必要と判断して行われる場合は保険が適用されます。保険適用の場合、自己負担割合に応じて数千円程度が目安となることが多いです。ただし、初診料や再診料、その他の検査(インスリン値測定など)が加わる場合もあります。正確な費用については、検査を受ける医療機関に直接問い合わせて確認することをおすすめします。
まとめ
- 75gOGTTは、糖尿病や妊娠糖尿病の診断に不可欠な検査です。
- ブドウ糖液を飲んだ後の血糖値の変動を詳細に調べます。
- 検査前は10時間以上の絶食が必要で、水以外の飲食は控えます。
- 検査中は安静を保ち、飲食・喫煙・運動は禁止です。
- 一般的な糖尿病の診断基準は、空腹時126mg/dL以上または2時間値200mg/dL以上です。
- 妊娠糖尿病の診断基準は、空腹時92mg/dL以上、1時間値180mg/dL以上、2時間値153mg/dL以上のいずれか1点です。
- 境界型は糖尿病予備群であり、生活習慣の改善が重要です。
- 健康診断で血糖値異常を指摘された場合に75gOGTTが推奨されます。
- 妊娠中の糖代謝異常が疑われる場合にも重要な検査です。
- 糖尿病のリスクが高い方も、早期発見のために検査を検討しましょう。
- 75gのブドウ糖はWHOの勧告に基づき、国際的に広く用いられています。
- 明らかに糖尿病と診断されている場合は、75gOGTTは不要です。
- 著しい高血糖がある場合は、検査が危険なため実施されません。
- 境界型と診断されたら、食事や運動で生活習慣を見直しましょう。
- 妊娠糖尿病と診断されても、出産後も定期的な検査と健康管理が大切です。
